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2019年4月


「休眠預金」を実践的な評価研究の場に

片山 正夫(公益財団法人「セゾン文化財団」理事長)

休眠預金を活用した民間公益活動支援のスキームが、いよいよ本格的に動き出した。
すでに年初には、“元締め”である「指定活用団体」が決まり、これから年末にかけて、民間団体に直接助成を行う「資金分配団体」がいくつか選ばれることになる。

そうなると気になるのは、どのような評価システムがこのスキームに導入されるのかということだ。
資金規模の大きさから考えて、ここでの評価の考え方を誤ると、日本の公益活動を活性化するどころか、最良の部分を摘み取ってしまうことにもなりかねないからだ。
 
このスキームにおける評価は重層的である。
大まかに分けただけでも、「助成先団体」の評価もあれば、「資金分配団体」さらには「指定活用団体」自体の評価もある。
その各々について、団体の運営がきちんと行われているかどうかに着目した「組織評価」と、活動が成果を上げているかに着目した「事業評価」が想定されることになる。
 
このうち「組織評価」のほうは、団体が手掛ける事業の態様に関わらず、ある程度までは定型化が可能であり、そのため評価基準の体系化や実践も先行している。
公益法人協会でも、すでに15年前に「公益法人の組織評価に関する調査研究」をテーマに委員会を設け報告書を出しているし、いくつかの機関が簡易な自己診断ツールを公開している。
私の関わっている非営利組織評価センター(JCNE)でも、第三者組織評価事業を3年前から開始しているが、基準を満たした組織には「グッドガバナンス認証」を付与しており、先ごろ6団体を初めて認証したところだ。
 
一方こうした「組織評価」に比べると、「事業評価」のほうは、なかなか一筋縄ではいかない。
そもそも対象となりうる事業があまりに多様であるうえ、助成する側の意図もさまざまであるため、標準化がしにくいからだ。

たとえば「資金分配団体」の中心的な助成先と想定される「地域の草の根NPO」による活動を考えてみても、何をもって成果と考えるかは実施団体によって違う(その違いにこそ、組織の哲学が表れるともいえる)。

また、現実の社会は多くの要因が複雑に絡まっており、インプットとアウトプット/アウトカムの関係は、実際には特定しにくい場合も多い。
こうしたなかで、あまり近視眼的な評価をしてしまうと、結果的に重要な成果を見落とす結果にもなりうる。

逆に、評価基準や指標の取り方によっては、冒険せず手堅くやりさえすれば高評価を得ることはさほど難しくない、という状況が生じることもある。
だが、新しいものを生もうとすれば、“失敗”をポジティブに評価する姿勢も必要だ。
休眠預金のスキームでは当初、社会的インパクト評価によって成果を計測する旨が謳われていたが、そうした手法が使えない場合もあるし、使うべきでない場合もあるだろう。

私は、評価のデザインにあたって、「自分たちの成果をどのような観点から評価してほしいと思っているか」「どこを見れば自分たちの成果がいちばんよくわかると思うか」といったことを、まず助成先に尋ねてみることを勧めたい。
生きた情報や知識は、何といっても助成先の側にあるからだ。
そのうえで、その組織・活動にはどういう評価の仕方がふさわしいかを、助成する側と受け手の両者が膝詰めで話し合ってみればよい。

同様のことを時間をかけて積み上げていくうちに、社会への説明にも有効で、かつ助成先の成長・発展の手助けにもなる評価の在り方がいくつか浮かび上がってくるだろう。
それは一つではないはずだ。
休眠預金のスキームを、ぜひ評価の優れたケースを蓄積し、体系化し、普及させていく実践的な研究の場にしてもらいたいと思う。

助成の評価は、決して“上から目線”で考えてはいけない。
評価方法や指標を机上で考案し、それを助成先に一律に被せようとするのはまさに下策である。
「金槌しか持っていない人にはすべての問題が釘に見える」(A・マズロー)というが、同様のことは評価においてもしばしば起こりうる。
「多様性の尊重」、「独創性の重視」と、素晴らしいスローガンを掲げておきながら、結局それを殺してしまうのは、評価のしかたに問題があるからなのだ。
それは日本の教育が十分証明してきたことだ。