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2018年10月


収支相償という言葉

鈴木勝治((公財)公益法人協会 副理事長)

1.周知の通り、公益認定法第14条は、「公益法人は、その公益目的事業を行うに当たり、当該公益目的事業の実施に要する適正な費用を償う額を超える収入を得てはならない。」と規定している。
第14条の法律の見出しは「公益目的事業の収入」とされているが、それにも拘らずいつの間にか行政庁、はこれを「収支相償」の原則とよんで、これが現在完全に流布している。

2.立法段階においてこの条文案を示されたときは、私は正直全くの仮案かと思った。何故なら改正前の民法法人においては、一定の利益が許容されていたにも拘らず、この条文ではそれは一切許されないようにみえるからである。
したがって当時、公益法人界はあげて、このような条文の不当を訴え、せめて「原則として」といった文言を入れ、例外の規定を政令等で入れることを要望したが、結局原文のまま法律となった。

3.しかも追い打ちをかけるかのように、立法担当者による『一問一答 公益法人関連三法』(2006年、商事法務)の解説では、「(実費弁償)を認定基準として設けることとしたものである。」としている。
さらには、公益認定等ガイドラインにおいては、「5.認定法第5条6号、第14条関係(公益目的事業の収入)」において、法律上の根拠がないにも拘らず、その(3)で判定方法について第一段階、第二段階というものを勝手に設けて判断するとしている。

4.「収支相償」として説明されている公益認定法第14条については、①法人が生存していくためには、それ相応の利益が事業収入に伴ってなければ、生存力を維持できないことはいうまでもないことであり、②公益認定法第1条では、この法律の目的を「公益の増進及び活力ある社会の実現に資することを目的とする。」としており、この目的を達成するためには、法人サイドにおいて、その原資としてその事業に係る収益や寄附金等がなければならない。

5.「収支相償」という言葉だけについても、大いなる疑問がある。当時この古色蒼然たる言葉に意味がよく分からず、使用例も私の調べた限りにおいては1~2件しか見つからなかった。
一つは、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)の旧定款第19条第1項であり、「(資金調達コストである―筆者注)政府の貸付金の利子、付属諸費及び資産の運用損失を償うに足るように、銀行の貸付利率又は債務の保証料率を勘案して定めるものとする」と規定されている(その他の例は地方公営企業等金融機構の例があるくらいなので省略する)。
そして開銀の方々はこれを収支相償と称している(例えば、2005年1月、大瀧雅之「クラブ財としての公的金融と民営化」問題、②『金融辞典』(1994年、東洋経済新報社)のP375~P376、加藤孝造「日本開発銀行」の項。因みに加藤氏の解説では、日本開発銀行について、「貸付金利は収支相償の原則に基づき、原資コスト及び事業運営上の諸コストを償うに足りるように、民間の金利を基準に定められている。」としている)。

6.以上みたように、「収支相償」という言葉は、事業収益に一定額を認めようとする考え方であり、上記3の実費弁償のように、収入がそれに関連する事業を超えない(ないしは同等)という考え方とはベクトルの方向が異なるのである。

従って個人的には、「収支相償」という言葉を使うとするならば、公益認定法第14条を改め(廃止を含む)、本来の姿とすべき、と考える(なお、以上の行論においては税制の扱いが平成20年度の改正で変ったことを公益認定法第14条の規定の根拠とする考え方があるが、これについて今回は採りあげない)。