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2017年4月


非営利団体における「競業」をどう考えるか

片山 正夫(公益財団法人「セゾン文化財団」常務理事)

非営利セクターにおいて「協業」はよく使われる言葉だが、「競業」のほうはあまり耳にすることがない。
しかし、一般法人法の第84条(財団法人については第197条)には、「理事が自己又は第三者のために一般社団(財団)法人の事業の部類に属する取引をしようとするとき」は、「理事会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない」と規定されている。
この、当該法人の“事業の部類に属する取引”が、すなわち「競業」にあたるのだ。
ややわかりにくいが、まあ要するに、その法人と類似の事業活動にかかる取引を、外では無断でするなということである。
かりに理事会の承認を受けずにこうした取引を行った場合、理事は法人に対する損害賠償責任を問われることになる(同法111条/197条)。
 
なぜこのような話を突然持ち出したかというと、私の関わっているある公益社団法人の理事会で、執行理事の「競業」規程違反が問題になったからである。
その執行理事は、自身の専門的な知見を外部から乞われ、各種の委員や講演、パネリスト等を、個人として引き受けていたが、これが「競業」にあたるという指摘があったのである。
じっさい、当該法人の定款に定められた事業(公益目的事業)には、対象分野の団体・機関との交流・連携等が謳われており、事業報告書等には、委員に就任したり、講師として出講したりすることも、その事例として記載されていた。
にもかかわらず、執行理事個人の行ってきた同様の活動について理事会で承認されたことはなかったというわけである。

なるほど一般法人法に照らせば、外見上これは「競業」規程違反にみえなくもない。
だが正直なところ、これに私は多少の違和感をもった。

第一に、委員や講師というのは、ふつう“その人”に特定して依頼することが多いだろう。
依頼の際、個人名に所属法人の肩書が付いていたとしても、それは文字通り肩書として使っているに過ぎず、あくまで頼んでいるのは個人に対してである。
こうした場合、当該法人との間に「競業」関係は最初から成立していないといえる(その意味では、委員の就任を法人の「事業」と捉えること自体おかしい。
もっとも、依頼がその法人に対するもので、人選も法人に任されているケースもなくはないであろう。この場合はもちろん別である)。
第二に、収益を目的とした事業ならともかく、公益目的事業において、そもそも「競業」という概念が想定できるのかどうかということである。

この規定はもともと会社法のものであろう。
同法第356条にはほぼ同じ文言が見えるが、こちらのほうの趣旨は理解しやすい。
たとえば、不動産会社の取締役が、家に帰れば個人でも不動産業を営んでいるというような場合、状況によっては会社の仕事を横取りして家業のほうの取引にしてしまうことも可能かもしれない。
これは、会社の得べかりし利益を、取締役の立場を利用して個人のものにしているのだから、法律の専門家でない私から見ても、かなりまずい事態だ。会社に損害を与えたのと同じという理屈も理解できる。

では、これと同じことが非営利法人でも起こるのだろうか。
起こることも確かにあり得るだろう。
だが、問題を営利企業とまったく同じに考えてよいかというと、それも少し違うような気がする(現に特定非営利活動促進法(NPO法)には「競業」の規定はない)。
たとえば、奨学金を交付する財団の役員が、私財で市民ファンドに自分の名を冠した奨学金を設定したとしても、そのことで財団の利益が毀損される可能性はないだろう。

さらにいうと非営利法人の場合、「競業」はそこここで普通に起こり得る。
不動産会社の役員が、個人でも不動産取引をおこなうようなことは、そうしょっちゅうは起こりそうもない。
しかし私が仕事をしている分野でいえば、たとえば演劇関係者が集まって理事会を構成し、演劇の振興を目的とした公益社団法人を設立して、公演や調査やシンポジウムなどさまざまな事業をおこなおうとする場合、これはもう「競業」だらけとなるはずだ(じっさい先の公益社団法人でも事情は同じで、私を含めて「競業」している理事は多いと思われる)。

もちろん念のために言えば、「競業」は禁止されているわけではなく、理事会の承認という条件が課せられているに過ぎない。
しかしだからといって、これをいちいち(否、包括的にではあっても)理事会の案件にするというのは、煩雑という以前に、いったいどれほど意味のあることなのかと考えてしまうのである。

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