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2016年7月


トラストオフィサーと非営利組織の役員 ―求められる資質―

太田達男((公財)公益法人協会 理事長)

営利事業として信託業が発展した母国は米国であるが、信託会社や商業銀行の信託部門で働くトラストオフィサーは、金融機関でも特別の資質が要求されかなり地位も高い職業であるようだ。
そのため、将来トラストオフィサーを志す人を対象とした専門教育も、大学や銀行協会信託部で盛んに行われていたが(過去形にしているのは、筆者が見聞したのは数十年も前であるためだが)、1960~70年代に大学でその分野で教鞭をとっていたノーマン・ウイギンスという人が書いた「職業としての信託業(原題 The Trust Business as a Career)」(*1)で、信託業につくための適性として大きく知的素養と精神的資質を挙げている。

知的素養は「法律的素養」「会計的素養」「投資に関する素養」「経営分析能力」を必須とするものだが、それと同時に6つの精神的資質を挙げている。

精神的資質は、まず「根気」という。トラストオフィサーはあらゆるタイプの人と接触する機会があるが、冷静に根気よく説明し、時によっては相手を説得する能力が必要ということだ。
次は「感情移入(Empathy)」ということで、これは共感(Sympathy)を超えて、相手と同じ立場になり怒り、悲しみ、喜ぶ事のできることを指す。
3番目は「正確性」、推量や曖昧な説明ではなく、常に正しい見解を告げる必要がある、即答できなければ調べて答えること。
4番目は「積極性」ということで、質問や問題から逃げずに前向きに対応する、場合によっては「NO」という勇気も必要という。
5番目の資質は「機転」とする。「機転」とは「他人との折衝の過程で何を言い、何をするのが最も適切かについて、咄嗟に的を得た判断」をすることのできることを言う。
そして最後に「ユーモアのセンス」。常に折衝や会話の中でしかめ面で終始するのではなく、絶えず笑みを浮かべユーモアを交えて話し合う能力ということ。

私は、信託マンを長年の職業としてきたが、確かにこれらの素質が必要だと共感するところがあった。尤も、私自身にそのような素質が完備しているとは、とても思えないのではあるが。

それはともかく私は、公益非営利組織の役員に求められる資質は、トラストオフィサーに求められる精神的資質と同じではないかと思う。
トラストオフィサーは、善良なる管理者の注意義務や忠実義務などをはじめとして、いわゆる受認者(Fiduciary)としての義務を負い、受益者のために常に最善の解を見出すことを求められる仕事である。

そして、公益非営利組織の役員も、不特定多数の利益である公益を追求し、財産管理はもとよりその事業においても最善の選択をする義務があるからだ。

岩井克人教授(当時東京大学大学院)は、「公益法人は―もっと広くNPO法人といってもいいが―
信任関係なるものを二重に引き受けている存在である。」と説いた(*2)。
すなわち、公益法人は社会から信認を受けており、理事者はその法人から信認されているという意味で二重のFiduciary というわけだ。

昨今、非営利組織に関連する不祥事件を耳にする中、私たちは自戒を込め、改めて二重Fiduciaryと
いうこと、そしてFiduciary に求められる精神的資質(できれば知的素養も)を想起したいものだ。

(*1) 1976年、三井信託銀行信託部訳 社内参考資料
(*2) 2002年11月25日、公益法人協会30周年記念シンポジウム
         「21世紀市民社会と公益法人」における発言(『公益法人』2003年1月号収録より)

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