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2015年4月


財団はインフレが怖い

片山 正夫(公益財団法人「セゾン文化財団」常務理事)

ロスチャイルド五兄弟の三男で、ロンドンを拠点に巨万の富を築いたネイサン・メイヤーは、次のように語ったという。

    資産を築くには大変な勇気と注意が必要だが、
    これを維持するにはその10倍もの知恵がいる。

私の場合、個人生活上はあまり役立てる機会のない言葉ではある。
が、財団を預かる人間としていえば、これはいま改めて噛みしめるべき箴言であるように思われる。

ご案内のとおり日本銀行は現在、金融の"異次元緩和"を継続中である。
これはいわば強制的にインフレに導こうというものだ。

長く続いたデフレを脱し、2%程度の物価上昇の軌道に乗せていくことは、たしかに正しい経済・金融政策であるに違いない。

ただ、われわれ財団にとってみれば、インフレはある意味で、低金利よりも"恐ろしい敵"である。
かつて第二次世界大戦後のインフレ下で、基金の運用益で活動する財団が大きな打撃を受け、その多数が活動停止に追い込まれたという事実がそれを物語る。

もちろん、戦後のインフレは悪性のハイパーインフレであり、政府も日銀もそのようなものを企図しているわけではない。とはいえ、インフレ率を本当に中央銀行が自在にコントロールできるのかといえば、それは神のみぞ知るである。

それに、財団からすれば、年率2%なら財産が実質的に減価してよいというものでもない。
とくに基金の運用益で活動する財団にとって、これは公益目的事業の原資を生むための資本を毀損していることになるからだ。

もしロスチャイルドが今日、財団を指導・監督する立場であったなら、収支相償を言う前に、少なくとも物価上昇分くらいは剰余金を出し、財産に組み入れよというガイドラインを示していることだろう。だが、いまの制度はどうもそういうことに好意的でない。
単年の収支バランスだけに拘泥し、財産の実質的な価値を長期的にどう保っていくかという視点がないのである。

財産を使い切る方針の財団であれば、それはそれでよいが、基金を積み、そこからの収益で長期的な公益活動を行っていこうという財団の場合、収入のすべてを使い切るような運営は、インフレ下では適切さを欠いているといえる。

いままでそれを意識せずに済んだのは、デフレという僥倖(?)ゆえであったことを、財団の理事は認識する必要があるだろう。

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