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2004年9月


日本学会事務センターの教訓

理事長  太田 達男

 約270の学会から、会員管理事務を引き受けていた財団法人日本学会事務センターが破産宣告を受けた。負債総額約30億円、債務超過額は6.3億円で、学会からの預かり金16億円は、ほぼ全額返還不能と伝えられている(8月18日付け各紙)。

 理事会や監事の牽制機能の欠如、不適切な情報開示、主務官庁のチェック不在などが、破綻に至るまでの放漫経営を見逃した最大の原因であることは明らかであるが、ここではそのことは措いて、別の視点から考えてみたい。

 そもそも、各学会からの預かり金は借入金や、買掛金、未払い金などと同様負債として、認識されていたことに悲劇の原因があると思う。負債の一種であるから、債務者が破産したときは一般債権者として扱われ、清算時に債権額の割合により残余財産が配当される権利しかないことになる。

 しかし、もしこの預かり金が270学会それぞれを委託者兼受益者、学会センターを受託者とする個別の「信託」契約として構成されていたらどうだろう。各信託(口座)に残る財産には、他の債権者は何の権利もなく(信託財産の独立性)、受託者破産時にその金額がそっくり各受益者に返還されることが可能だった。

 もちろん、その信託財産を受託者が信託目的外(自己の運転資金など) に流用していたら、返還する金銭がなく同じ結果になっていたとも考えられるが、少なくとも信託法で認められている受益者の各種の請求権などを行使することができ、預かり金の返還とは異なる視点での返還交渉が可能であったのではないか。

 また、そもそも信託財産であるという認識が契約上明確ならば、単なる消費寄託としての預かり金よりは他への流用を抑止する力が強かったのではないだろうか。

 もっとも、当事者が「信託」として認識していない場合でも、裁判所が信託法理により判示する事例もあるので、訴訟になるとその観点からの展開がありえないわけではない。

 しかし、私が言いたいのは、「他人から財産を預かる行為」にもっと信託法理を活用すべきだということである。信託法理は一般には馴染みがなく、信託銀行の専売特許と思われがちだが、私達の日常の生活に利用しても良いのではないか。

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