2017年6月


泥縄にだけは、なってほしくない

山岡 義典((公財)助成財団センター理事長、(特活)市民社会創造ファンド運営委員長)

「1,000人は要るだろうね」

こんな会話が、私のオフィスで飛び交っている。
休眠預金の活用が本格化したときのプログラム・オフィサー(PO)の数だ。
1人のPOが扱える資金は、多くて年5,000万が限界だろう(丁寧に扱うなら3,000万程度か)。
すると500憶の資金を配分するには、最低で1,000人が必要になる。そういうことだ。

資金配分という仕事は、一見、見よう見真似で誰にでもできる。
お金を欲しい人は、幾らでもいるからだ。
しかし、社会的な資源を、ただのバラマキに終わらせてはいけない。

今、何が必要で、どこに何を出すのが最も有効か、資金を生かして使うにはどうすればよいか。
それを考え抜いて「助成プログラム」を企画開発し、その実効ある運営を担うのがPOという専門職である。
広い視野と緻密な社会的技術を必要とする。現場との対話能力も求められる。
PO自体は日本には未だ少ないが、POという職名にこだわらなければ、同様の職務をこなす人は、助成財団などにもかなりいる。
しかし、余るほどいるわけではない。むしろ不足している。
だから、すぐにかき集めるということは、殆ど無理といってよい。

休眠預金に限らず、助成後の評価について語られることは多い。それも重要だ。
しかし、ズサンな助成プログラムからはズサンな成果しかでてこない。
そんな例に、ときどき出会う。
「どうして、こんないい加減な助成プログラムに応募しちゃったのかね」と、可哀そうになることもある。

助成後の評価が高いのも低いのも、多くの場合は、そのプログラムがしっかりしているかどうかにかかっている。
最初に入口としてキチンとした助成プログラムをつくることが、まず大事だ。
それを抜きにして出口の評価ばかりに熱をあげるのは、何とも滑稽に私には見える。
投資の順序が違うのではないか。

では、どうすればよいか。
大した妙案は私にはないが、まず使う資金を一気に増やさないことだろう。
POの成長に合わせて、増やしていけばよい。
その前提の上で、資金配分を担いたいところは、まず密かにPOの適材を確保して、潜在能力をつけておくことだ。
視野を広げておくことも、その重要な要素になる。
あとは試行錯誤しながら、自主事業のOJTで、しっかりと力をつけておくことだろう。
これからはPO研修なども増えるだろうから、アンテナを張って、中身を吟味しながら、適当と思われる研修に参加するのもよい。泥縄にだけは、なってほしくない。

2017年5月


三つの仮説 ―2016年度定点アンケートから―

太田達男((公財)公益法人協会 理事長)

公益法人協会では、2005年以降公益法人(改革後は一般法人も)を対象に、毎年7月前後に実情調査のためのアンケートを実施している。
このアンケート結果は、行政・立法当局等への提言・要望活動の重要な基礎資料として活用しているところである。

2016年度のクロス分析により、三つの仮説を立ててみた。
なお、この傾向値は過年度においても同様の傾向が見られているが、ここでは2016年度の数値により見てみよう。

仮説1:財団は社団に較べ、新公益法人制度により親和的である。

「今、自由に法人類型を選択できるとしたら、どの法人格を選択しますか」という公益法人に対する問いに、公益法人以外の法人格を選択するとした回答は、財団は11.3%、社団は22.9%と倍の開きがある。

「法人の運営上何か困っていることはありますか」という質問に対しては、財団は54.5%、社団は64%と、社団の方が制度上の困難を感じている率が高い。

「インターネットによる情報公開をしていますか」に対しては、ほぼ同様の率で公開はしているものの、財団88.2%、社団84%と、わずかながら財団の公開率が高い。
このことは、そもそも制度改革施行日の2008年12月1日現在の旧民法公益法人数24,317のうち、財団法人が49%であったが、2016年12月末現在の新公益法人数9,397に占める財団法人は56%に上昇していることからも窺えるところである。

仮説2:内閣府所管法人は都道府県所管法人に較べ不満が少ない。

「今自由に法人類型を選択できるとしたら、どの法人格を選択しますか」という公益法人に対する問いに、公益法人以外の法人格を選択するとした回答は、内閣府所管は9.9%、都道府県は19.9%と倍の開きがある。
また都道府県とはいっても中には、公益法人以外の法人格を選択したいという比率が40%を超えるところが4県あり、かなりのばらつきがあることも事実だ。

「法人の運営上何か困っていることはありますか」という質問に対しては、内閣府は52.3%、都道府県は62.1%と10ポイントの開きがある。
同様に80%以上が困っているというところが5県あり、ここでも都道府県にはバラつきがあることを指摘しておきたい。
尤も、この仮説は収支相償に対する不満度や立入検査の対応など運用の詳細については、大差がなくさらに検証する必要があろう。

仮説3:一般法人は公益法人に較べ運営上の障害は少ない。

「法人の運営上何か困っていることはありますか」という質問に対して、公益法人は58.8%が「あり」と答えているが、一般法人は22.3%と大差がある。
もちろん、これは制度上一般法人には行政庁による監督制度がなく、移行一般法人といえども公益目的支出計画完了後は、行政庁の手を離れるので、当然予想される結果であろう。

反面インターネットによる情報公開率は、公益法人の86.3%に対し一般法人は53.7%と低く、行政庁の監視がない一般法人に対し、どのように社会から評価の目を向けていくのか一つの大きな課題となろう。

2017年4月


非営利団体における「競業」をどう考えるか

片山 正夫(公益財団法人「セゾン文化財団」常務理事)

非営利セクターにおいて「協業」はよく使われる言葉だが、「競業」のほうはあまり耳にすることがない。
しかし、一般法人法の第84条(財団法人については第197条)には、「理事が自己又は第三者のために一般社団(財団)法人の事業の部類に属する取引をしようとするとき」は、「理事会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない」と規定されている。
この、当該法人の“事業の部類に属する取引”が、すなわち「競業」にあたるのだ。
ややわかりにくいが、まあ要するに、その法人と類似の事業活動にかかる取引を、外では無断でするなということである。
かりに理事会の承認を受けずにこうした取引を行った場合、理事は法人に対する損害賠償責任を問われることになる(同法111条/197条)。
 
なぜこのような話を突然持ち出したかというと、私の関わっているある公益社団法人の理事会で、執行理事の「競業」規程違反が問題になったからである。
その執行理事は、自身の専門的な知見を外部から乞われ、各種の委員や講演、パネリスト等を、個人として引き受けていたが、これが「競業」にあたるという指摘があったのである。
じっさい、当該法人の定款に定められた事業(公益目的事業)には、対象分野の団体・機関との交流・連携等が謳われており、事業報告書等には、委員に就任したり、講師として出講したりすることも、その事例として記載されていた。
にもかかわらず、執行理事個人の行ってきた同様の活動について理事会で承認されたことはなかったというわけである。

なるほど一般法人法に照らせば、外見上これは「競業」規程違反にみえなくもない。
だが正直なところ、これに私は多少の違和感をもった。

第一に、委員や講師というのは、ふつう“その人”に特定して依頼することが多いだろう。
依頼の際、個人名に所属法人の肩書が付いていたとしても、それは文字通り肩書として使っているに過ぎず、あくまで頼んでいるのは個人に対してである。
こうした場合、当該法人との間に「競業」関係は最初から成立していないといえる(その意味では、委員の就任を法人の「事業」と捉えること自体おかしい。
もっとも、依頼がその法人に対するもので、人選も法人に任されているケースもなくはないであろう。この場合はもちろん別である)。
第二に、収益を目的とした事業ならともかく、公益目的事業において、そもそも「競業」という概念が想定できるのかどうかということである。

この規定はもともと会社法のものであろう。
同法第356条にはほぼ同じ文言が見えるが、こちらのほうの趣旨は理解しやすい。
たとえば、不動産会社の取締役が、家に帰れば個人でも不動産業を営んでいるというような場合、状況によっては会社の仕事を横取りして家業のほうの取引にしてしまうことも可能かもしれない。
これは、会社の得べかりし利益を、取締役の立場を利用して個人のものにしているのだから、法律の専門家でない私から見ても、かなりまずい事態だ。会社に損害を与えたのと同じという理屈も理解できる。

では、これと同じことが非営利法人でも起こるのだろうか。
起こることも確かにあり得るだろう。
だが、問題を営利企業とまったく同じに考えてよいかというと、それも少し違うような気がする(現に特定非営利活動促進法(NPO法)には「競業」の規定はない)。
たとえば、奨学金を交付する財団の役員が、私財で市民ファンドに自分の名を冠した奨学金を設定したとしても、そのことで財団の利益が毀損される可能性はないだろう。

さらにいうと非営利法人の場合、「競業」はそこここで普通に起こり得る。
不動産会社の役員が、個人でも不動産取引をおこなうようなことは、そうしょっちゅうは起こりそうもない。
しかし私が仕事をしている分野でいえば、たとえば演劇関係者が集まって理事会を構成し、演劇の振興を目的とした公益社団法人を設立して、公演や調査やシンポジウムなどさまざまな事業をおこなおうとする場合、これはもう「競業」だらけとなるはずだ(じっさい先の公益社団法人でも事情は同じで、私を含めて「競業」している理事は多いと思われる)。

もちろん念のために言えば、「競業」は禁止されているわけではなく、理事会の承認という条件が課せられているに過ぎない。
しかしだからといって、これをいちいち(否、包括的にではあっても)理事会の案件にするというのは、煩雑という以前に、いったいどれほど意味のあることなのかと考えてしまうのである。

2017年3月


3.11と9・11 ‐日米被災者のきずなと3.11総合記念館構想‐

太田達男((公財)公益法人協会 理事長)

あれから6年、今年も3月11日の午後2時46分を迎えた。

いまだに行方不明とされる方々の数2,500人余、今も3万5,000人余りの被災者が仮設住宅で不自由な生活を余儀なくされている。
原発事故で強制避難を余儀なくされた被災者8万人のうち、故郷への帰還を果たした人は、ほんの数%、県外での避難生活を送る子供たちへの心ないいじめなどには、言いようのない無力感すら覚える。

3.11の10年前、9.11に発生した米国同時多発テロは、今年16年目を迎える。
米国では、翌年の2002年に早くも「9.11家族会」が結成され、IRS(内国歳入庁)により、日本の公益法人に相当する501(C)(3)パブリックチャリティと認定された(当初名称September 11th Widows' and Victims' Families' Association、現在 The September 11th Families' Association)。

この団体は、被害者家族への多面的な支援活動、記録史実の伝承などをミッションとし、ワールドトレードセンター跡地の向かいに建設された9.11追悼記念館(The 9/11 Tribute Center)も運営している。
この「9.11家族会」は、毎年3.11被災地を訪問、同じく家族などかけがえのない人たちを失った経験者として心のケアなど支援の手を差し伸べている。

そして、原発事故やテロなどの悲劇を二度と起こさぬよう後世への願いを残すため、世界貿易センタービルの鉄骨を使った折り鶴のモニュメントが、この家族会や日米のロータリークラブから贈られ、2012年12月に郡山市開成山公園に、ニューヨークの方向を向いて設置された。
この折り鶴の原型は、広島原爆の被爆により12歳で世を去った佐々木禎子ちゃんが折った2,000羽以上ともいわれる「サダコの折り鶴」で、そのうち一羽は9.11追悼記念館にも展示されている。
 
昨今、被災遺構の保存を巡って、夫々の現地では賛成論、反対論などさまざまな議論があるようだが、この1000年に一度とも言われる震災・津波や原子力発電の恐ろしい実態を後世に残す必要は誰しもが認めるところであろう。

9.11追悼記念館は、被災後僅か5年足らずの2006年6月に開館した。
日本でも、「せんだい3.11メモリアル交流館」が開館され、福島県では復興祈念公園が、釜石市では震災メモリアルパークなども構想段階のようだが、横断的で総合的な3・11総合記念館を考える時期に来ているのではなかろうか。

この記念館は、展示だけでなく地震、津波、大火、洪水などあらゆる自然災害と原子力災害の防災、減災、援災(発生後の支援活動)などの世界最高水準の研究拠点としての性格と、3.11被災者家族の多種多様な支援や、被災地の住民の手による復興をも目的とする多目的な組織として考えられないだろうか。

もちろん資金は、国や自治体が出捐し、企業、市民からも寄付を募り、そして運営は被災者家族の手に任せるのが良い。

9.11同様このような声が被災者の方々や多くの支援団体から起こることを期待したいものだ。

2017年2月


「助成財団フォーラム」への名称変更に思いを込めて

田中 皓((公財)助成財団センター 専務理事)

最近は俳句や川柳をたしなむ人が増えてきているようです。
テレビでも夏井いつき先生が著名人のゲストが作成した俳句を、容赦のない毒舌で評価・添削する姿が人気を博し話題となっています。
また、川柳は技巧にとらわれず、話し言葉で感情や情景を率直に表すのが特徴で取っ付き易いのかもしれません。

(公財)公益法人協会では(公社)日本フィランソロピー協会と共催し、2回目を迎えた昨年12月の「寄付月間」の取り組みの一環として「寄付川柳」を募集したところ、何と5,000件もの応募があり、現在優秀な作品の選定の真っただ中であるようで、結果の発表が楽しみです。
おりしも2月13日には、毎年恒例の「サラリーマン川柳」(第一生命保険)の入選100句が発表されましたが、今年で30回目、5万句を超える句が寄せられたのは20年ぶりだとか。
このサラリーマン川柳の過去の優秀作品を振り返ってみますと、その時代の世相を実に見事に反映し、その時代を鮮明に思い起こさせます。

過去の作品では、「ボディコンを 無理して着たら ボンレスハム」「ドットコム どこが混むのと 聞く上司」「『空気読め!!』 それより部下の 気持ち読め!!」等々。
今年の作品も同様で「一枚の トランプ世界を 撹乱し」「ものわすれ ふせぐサプリを 飲み忘れ」「ありのまま スッピンみせたら 君の名は?」等いまを象徴するキーワードを巧みに織り込んだ川柳が、入選100句に並んでいます。

(公財)助成財団センターでは、1985年の設立以来、会員向けの行事として年に1度「会員の集い」を開催。
その後名称を「助成財団の集い」と変え、本年からは「助成財団フォーラム」と名称を変更しました。
その間に取り上げられた講演やシンポジウム、セミナー、パネル討論などを振り返ってみますと、先の川柳ではありませんが時代を先取りするテーマを都度取り上げていて、その時代の課題を浮き彫りにしていることが良く読み取れます。

「フォーラム」に名称を変えた背景は、明2月16日のフォーラム当日に理事長から話があることになっていますのでここでは触れにくいのですが、ポイントは助成財団間の仲間内だけの情報交換に止まらず、その活動や成果をより多くの方々に知ってもらうため、助成に係わりのある、関心のあるより多くの方々が参加しやすく、気軽に意見交換が出来るオープンな交流の場にしていきたいとの思いが強くあります。

昨今は非営利組織の活動を支える資金も、民間助成金のほかに地域ファンドや公益信託、休眠預金、遺贈寄付など時代の変化と共に官民による多元化がどんどん進展しています。
その中で助成財団の自らの役割やポジションをしっかりと認識し、時代を先取りした事業を展開するためにも「フォーラム」等を通しての関係者間の意見交換や交流が強く望まれます。

助成の在り方も、これまで中心的であった公募型助成一辺倒から脱却し、財団の主体的、能動的な助成事業を展開すること、その一例として今回のフォーラムのテーマでもある財団の意思による非公募助成等にもチャレンジしていくことも必要になってくるでしょう。

そのためには、非公募助成に対する公益性の認定の問題や助成財団自身の体力強化、財政基盤強化を阻害しかねない収支相償の問題は大きな壁となっています。
これをクリアし、財政的な余力を持った財団運営が実現できてこそ、社会のニーズに応えられる臨機応変な助成活動が可能になります。

現在、公益認定等委員会の会計研究会で検討されている「特定費用準備資金」が、将来の事業拡大のための資金に加え、将来の収支変動に備えた資金として活用しやすくなることや、加えて当期の公益目的保有財産を金融資産として取得し事業の「維持、拡大」に活用しやすくなる等の運用・解釈が実務に則した形で実現されることを切に要望し期待するところです。

今回の「フォーラム」への名称変更に込めた思いを多くの関係者にご理解いただき、その思いを貫くために制度、実務の両面からの課題解決に引き続き注力していきたいと考えるところです。

2017年1月


三題話とFiduciaryの精神

太田達男((公財)公益法人協会 理事長)

公益法人はじめ公益非営利組織の皆様、明けましておめでとうございます。

さて、ご承知のように昨年12月「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」が成立し、1年半後の施行が予定されています。
また、公益信託制度の抜本的改正が、現在法務省の法制審議会で審議中であり、2018年には新法が国会に提出される動きになってきました。
もう一つ、資産を公益のために寄附する機運を普及促進し支援しようという「全国レガシーギフト協会」が昨年11月に設立されました。

これらは、一見夫々別々の動きのように見えますが、その根幹に流れるものは、民間資金を非営利公益団体が社会的課題を解決するために必要な活動資金として、役立てようというものです。
休眠預金活用制度では、年間500億円前後の資金が民間公益活動に廻ることが予想されています。
公益信託では現在600億円前後の残高ではありますが、一定の要件を充足する公益法人等も受託できる方向で制度設計が進んでいますから、期待される公益法人並みの税制整備と相まって、かなりの信託資金の流入が期待できます。
また、遺贈による資産の寄附は、米国の場合187億ドル(約2.1兆円)、わが国では僅か300億円程度と米国の1.4%ですから*、今後の伸びしろが相当期待できます。

これらの資金の多くは、助成財団など資金的支援を事業活動の中心に据える非営利法人が配分団体として預託、寄附もしくは信託を受け、現場で活動する団体に助成、貸付、出資などの資金的支援をするという構図になります。

そこで私が声を大にして言いたいことは、これらの団体にはしっかりとしたガバナンスにより運営され、法令遵守はもとより公益組織としての最高度の倫理観を持ち、そして透明性の高い行動が最低条件として必要であるということです。
また配分団体の場合はさらに、適切な助成先を選考する公正無私で、支援する事業の必要性についての眼力を兼ね備えた選考体制の構築が不可欠と思います。

信託形式の場合はもちろんですが、休眠預金もレガシー寄附も他者から信じて託された預かりものという意識が必要です。
ひと言でいうと受任者(Fiduciary)としての義務があることを肝に据えていただきたいということです。

休眠預金、公益信託、レガシー寄附いずれも、万一不適切な管理・使用があった場合取り返しのつかない事態になります。
すなわち社会からの信用を失うとその当事者に対するだけでなく、制度そのものへの不信感があっという間に広がってしまいます。
このようなことが続くと、規制当局の規制が強まり、非営利組織の最大の特徴である創造的、先見的、迅速な活動が制約されることになりかねません。

このコラムをお読みの皆様には釈迦に説法と思いますが、年頭に当たり敢えてこのことを強調し、併せて皆様にとって更なる飛躍の年となるよう祈念いたします。


*出所:日本は、平成25年財務省資料「相続税の課税状況の推移」による。
    米国は、"Internal Revenue Service Data Book 2014" Table 1, 5,
    および "SOY Tax Stats-Estate Tax Filing Year Table 2014" Table 3による。

2016年12月


もう一つの公益? もう一つのクリスマス・プレゼント?

山岡 義典((公財)助成財団センター理事長、(特活)市民社会創造ファンド運営委員長)

この12月2日、「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」(通称、休眠預金活用法)が成立した。 市民と議員の協働立法でもある。
施行には1年半あるものの、ちょっと早いクリスマス・プレゼントかと喜んだ人も多いことだろう。

この法律の目的は、第1条に次の通り。
「休眠預金等に係る預金者の利益を保護しつつ、休眠預金等に係る資金を民間公益活動を促進することにより、国民生活の安定向上及び社会福祉の増進に資すること」。

〈なるほど、民間公益活動ね、いいじゃない〉と思いつつ預金管理等の聞き慣れない難解で退屈な(しかし本当はとても大事な)条文を読み進むと、下記の第16条に出会う。

「休眠預金等交付金に係る資金は、人口の減少、高齢化の進展等の経済社会情勢の急速な変化が見込まれる中で国及び地方公共団体が対応することが困難な社会の諸課題の解決を図ることを目的として民間の団体が行う公益に資する活動であって、これが成果を収めることにより国民一般の利益の一層の増進に資することとなるもの(以下「民間公益活動」という。)に活用されるものとする」。

〈ふむふむ、これが民間公益活動ね、何だか前後の形容句が長々とおせっかいじみているけど、まあいいか〉と納得しながら第17条に進む。

ここで頭が急に混乱してきた。
「公益に資する活動」すなわち目的にいう「民間公益活動」とは次のことだと言うのだ。

「 一 子ども及び若者の支援に係る活動
 二 日常生活又は社会生活を営む上での困難を有する者の支援に係る活動
 三 地域社会における活力の低下その他の社会的に困難な状況に直面している地域の支援に係る活動
 四 第三号に準ずるものとして内閣府令で定める活動」。

〈ん、これだけ? 突然、どうして?〉

特定非営利活動促進法第2条の別表には20項目の「特定非営利活動」が掲げられており、公益認定法第2条の別表には23項目の「公益目的事業」が掲げられている。
ここにまた、4項目の「公益に資する活動=民間公益活動」が登場した。

前2者はかなり重なり合うところがあるが、今回の「活動」は拡大解釈しても前2者の半分くらいしか覆わない。
「非営利」と「公益」、「活動」と「事業」、微妙な意味合いの違いはあるが、2つの第2条別表のどちらかで何とかならなかったのか。
公益概念がまた混乱してこないかと心配だ。

しかも、この限られた公益分野に毎年500億の資金が天から降ってくる。あるいは地から湧いてくる。
全国民が頑張って集めた赤い羽根の共同募金が約200億を低迷という世界だ。
寄附を地道に集めるのが空しくなってくる。
寄附の文化を育てようという心情や行為に、この500億は馴染まない。
もしかしたら、このクリスマス・プレゼントは、日本初の寄附月間に、とんだ冷や水を浴びせることにならないかとも心配だ。

2016年11月


非営利法人法制の再構築

太田達男((公財)公益法人協会 理事長)

来年4月から社会福祉法人制度が大きく変わる。

意思決定機関であり役員選任機関としての評議員会の必置、理事・監事の役割と義務・責任の明確化、一定規模以上の法人に会計監査人を必置とするなどガバナンス体制の強化、超過内部留保額の社会還元など財務規律の強化、法人および所轄庁による情報公開の徹底、そして報告要請、立入検査、勧告、命令、解散命令など所轄庁の監督権限の明確化などが主たる内容である。

新制度に備え、2万前後の各社会福祉法人は、新定款や役員報酬基準など各種規程の起案、評議員をはじめとする役員等の人選、そして財務体質の見直しなどに懸命に取り組んでいるが、まさに、8年前に始まった公益法人制度の大改革を彷彿とさせる改革である。
 
社会福祉法人は、福祉サービスを提供する高い公益性と非営利性を備えた民間の法人として、税制上も公益法人と同様の優遇措置を受けている法人であり、同じ公益非営利セクターの一員としてこの改革を歓迎し、その目的が円滑に達成されるよう期待するものである。
 
ところで、新社会福祉法人制度の法的枠組みは、一般法人法における財団法人の規律とほぼ同じであり、所轄庁の監督や情報公開も公益認定法に範を採るところが多い。
 
公益法人制度およびその法人根拠法である一般法人法は、色々問題点も内包はしており改正を必要とする点も多いものの、数ある非営利法人法制の中では、現時点では一種の到達点としての位置づけができるものである。
2011年の特定非営利活動促進法大改正、就中認定部分も公益法人法制が参考にされたが、今回の新社会福祉法人制度も含め、今後、学校法人、社会医療法人、更生保護法人など公益型非営利法人法制の再構築が論議される場合も参考とされることとなろう。

もちろん、各種非営利法人は異なる公益目的事業を担うものであるから、事業法としての側面はそれぞれの規律が求められるが、機関設計、情報開示、会計基準など法人運営に係る基本的な規律は、学校法人であっても、社会福祉法人であっても、公益法人であっても異なるものではないと思う。
まして税制支援措置が近似化している公益型非営利法人にあっては、ガバナンス体制や情報公開の中身に差異のあること自体が国民の目から見て奇異に映るであろう。

今回の社会福祉法人制度改革は、私たち非営利セクター全体にとっても、その意味で大きな意義を持つものと考える次第である。


非営利法人法制の再構築

太田達男((公財)公益法人協会 理事長)

来年4月から社会福祉法人制度が大きく変わる。

意思決定機関であり役員選任機関としての評議員会の必置、理事・監事の役割と義務・責任の明確化、一定規模以上の法人に会計監査人を必置とするなどガバナンス体制の強化、超過内部留保額の社会還元など財務規律の強化、法人および所轄庁による情報公開の徹底、そして報告要請、立入検査、勧告、命令、解散命令など所轄庁の監督権限の明確化などが主たる内容である。

新制度に備え、2万前後の各社会福祉法人は、新定款や役員報酬基準など各種規程の起案、評議員をはじめとする役員等の人選、そして財務体質の見直しなどに懸命に取り組んでいるが、まさに、8年前に始まった公益法人制度の大改革を彷彿とさせる改革である。
 
社会福祉法人は、福祉サービスを提供する高い公益性と非営利性を備えた民間の法人として、税制上も公益法人と同様の優遇措置を受けている法人であり、同じ公益非営利セクターの一員としてこの改革を歓迎し、その目的が円滑に達成されるよう期待するものである。
 
ところで、新社会福祉法人制度の法的枠組みは、一般法人法における財団法人の規律とほぼ同じであり、所轄庁の監督や情報公開も公益認定法に範を採るところが多い。
 
公益法人制度およびその法人根拠法である一般法人法は、色々問題点も内包はしており改正を必要とする点も多いものの、数ある非営利法人法制の中では、現時点では一種の到達点としての位置づけができるものである。
2011年の特定非営利活動促進法大改正、就中認定部分も公益法人法制が参考にされたが、今回の新社会福祉法人制度も含め、今後、学校法人、社会医療法人、更生保護法人など公益型非営利法人法制の再構築が論議される場合も参考とされることとなろう。

もちろん、各種非営利法人は異なる公益目的事業を担うものであるから、事業法としての側面はそれぞれの規律が求められるが、機関設計、情報開示、会計基準など法人運営に係る基本的な規律は、学校法人であっても、社会福祉法人であっても、公益法人であっても異なるものではないと思う。
まして税制支援措置が近似化している公益型非営利法人にあっては、ガバナンス体制や情報公開の中身に差異のあること自体が国民の目から見て奇異に映るであろう。

今回の社会福祉法人制度改革は、私たち非営利セクター全体にとっても、その意味で大きな意義を持つものと考える次第である。

2016年10月


「障がい者アート」を超えて

片山 正夫(公益財団法人「セゾン文化財団」常務理事)

リオ五輪も終わり、いよいよ4年後の東京オリンピック・パラリンピックに向けた本格的な助走が開始されるが、われわれ芸術文化関係者の関心は、どのような文化プログラムがこれから進められていくのかという点にある。
 
もともとオリンピックは、スポーツの祭典であると同時に文化の祭典でもある。
オリンピック憲章には、「スポーツと文化・教育をひとつにする」ことがオリンピズムの希求するものであると謳われており、組織委員会は文化プログラムを開催することが義務づけられている。

たとえば前々回のロンドン大会では、その前の北京大会終了時から4年間のあいだに、英国全土1,000ヵ所以上で文化プログラムが展開され、4,300万人もの人々がこれに参加したという。
なかでも特に世界の人々に強い印象を残したのは、障がいをもつアーティストの創作活動を支援する“UNLIMITED”というプログラムであった。
車いすに乗ったまま水中でダンスするスー・オースティンの印象的なビジュアルをご記憶の方も多いであろう。
 
こうした動きにも刺激されて、東京大会に向けては、障がい者によるアートにこれまで以上に関心が集まりそうだ。
すでに東京都は、文化ビジョンで「障害者アート」への支援を明記し、傘下のアーツカウンシル東京でも「障害者アート」を主たる対象とした「芸術文化による社会支援助成」を開始している。
民間でも、日本財団が「パラリンピックサポートセンター」を設置し、「パラリンピックとアーツ」を主題とした勉強会を発足させた。

もちろんこれまでも、障がい者とアートを結ぶ取り組みは、日本でも数多く行われてきた。
ただそれらは、どちらかといえば福祉的な視点に立ったものが多かったといえる。
つまり、アートを媒介として障がい者の社会参加を促すというスタンスだ。
これはこれで非常に意義のある活動だろう。
しかしアートのユニークな価値はそこにとどまらない。

舞踊評論家で、われわれの財団の評議員も務めていただいている石井達朗氏は、「『障害者スポーツ』という言いかたがあるが、ダンスではそのようなジャンルは必要ない」と言い切る。
まさにそうなのだ。芸術において、障がい者かそうでないかは全く関係がない。
障がいに応じた何がしかのサポートは必要としても、こと表現というレベルでは、ハンデキャップ自体が存在していない。
スポーツがオリンピック/パラリンピックと区分されているからといって、これにそのまま倣うことはないのだ。

“UNLIMITED”はまさにその発想に立ったプログラムであった(ようにみえた)。
しかしそれでも参加アーティストからは、“障がい者”として捉えられることへの戸惑いの声があったという。

最近日本でもNHKの番組が「障がい者を“感動的に”描くことは果たして必要なのか」という問いかけを行い、大きな議論となったが、アートの世界はこうした“特別扱いされる居心地の悪さ”を乗り超えうる最初の領域ではないだろうか。
障がい者による「障がい者アート」と呼ばれないアートを、東京から発信したいものだ。

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