2017年9月


縮小現象(shrinking)は見られるか

太田達男((公財)公益法人協会 会長)

ICFO(International Committee on Fund raising Organizations)というNPO評価機関の国際的中間支援組織があり、米州、欧州を中心にNPO(非営利公益組織)の組織評価を主目的事業とする18団体が加盟している。
日本からは、当公益法人協会も設立発起人の一人となって昨年4月に誕生したばかりの(一財)非営利組織評価センター(JCNE)と(公財)日本財団が加盟している。

私は、JCNEの代表者として2016年と2017年の大会に参加したが、2017年大会のテーマは、「チャリティの活動領域の変容と評価機関のインパクト(Changing Spaces of Charities:The Impact of Monitoring Agencies)というものであった。
各国の専門家・実務者から異口同音に提起された問題意識は、NPOの活動領域が縮小(shrinking)してきているのではないかというものであった。
すなわち、政府・市場経済・NPOなど市民社会組織の三者間の関係において、市民社会組織の活動の場が相対的に狭くなってきているという認識である。

まず、政府との関係においては政府の力が相対的に強くなり、NPOはどうしても受け身になる傾向が見られる、さらには、NPOを政府にとって都合の良い存在としか考えない政府による有形無形の圧力も無視できないという。

市場経済(企業)との関係においては、企業が社会的課題の解決に向けて、より積極的(aggressive)になってきている現象が指摘された。
特にドイツでは、高齢化、出産率低下、都市集中、一人所帯増加、移民の増加、ジェンダー差別などが顕著にみられ、このような変化に市場経済は、NPOの手法をとり入れてうまく対応しているが、逆にNPOはこの変化にうまく対応できていない。
つまり、NPOは組織自体のリ-ダーシップの意識変革、市民の参加意識の減退、財務基盤の脆弱化、社会のニーズ把握などの点において、変化に対応することに失敗していると指摘する。

果たして、これらの指摘は日本にも当てはまるのかどうか。

政府との関係では、ここ10年来公益法人制度改革(2008年)、特定非営利活動促進法の大改正(2011年)、社会福祉法人改革(2017年)や、これらに連動する非営利法人税制の整備を見れば、制度的には市民の自発的な公益活動への取組の場は拡大してきているようにもみられる一方、制度の実際的運用面ではどうか、地域の現場ではどうか、行政の下請け化が進んでいるのではないかなど色々見方があろう。

企業との関係ではどうか。西欧諸国以上にある意味で多くのかつ深刻な社会的課題に、伝統的なNPO組織はうまく対応しているのかどうか、企業のCSR、CSV活動や、いわゆる社会的企業と呼ばれるハイブリッドな組織が、より柔軟にとりくんでいるのではないかなど。
 
2018年度は、公益法人制度改革10周年、特定非営利活動法人制度創設20周年を迎えるが、一つの大きなテーマとして検証し、総括してみるのも必要と思う。

2017年8月


公益法人協会の新たなスタートに期待!!

田中 皓((公財)助成財団センター 専務理事)

この夏の東京は立秋を過ぎ「残暑見舞い」の時期にもかかわらず、気温は低めで日によっては9月下旬並み、雨の降る日が15日間も続くという40年ぶりの異常気象となっています。
そんな中、2年に一度の世界水泳(ブタペスト)や世界陸上(ロンドン)、ゴルフのメジャー大会等の深夜Liveについつい夜更かしが続く今日この頃です。近年、俄然パワーアップし世界で戦える若手日本人選手の活躍に期待して思わず引き込まれますが、同時にベテラン選手との世代交代が上手く進んでいることも実感でき、2020年東京オリンピックへの期待感も高まります。

世代交代と言えば、ご高承の通りこの6月27日に公益法人協会では17年ぶりに太田理事長から雨宮新理事長へのバトンタッチが実現し、専務理事等の執行役員や事務局長の交代が発表されました。
太田前理事長が就任された平成12年の12月には「行政改革大綱」(平成12年12月1日)が閣議決定され、その柱の一つとして「公益法人に対する行政の関与の在り方の改革」が取り上げられ、それが後の公益法人制度改革の口火となりました。

以来、紆余曲折の17年間、平成20年12月には新制度がスタート、来年12月には早くも10年が経過することになりますが、その間の太田前理事長を筆頭とする公益法人協会では、新制度の普及およびより良き制度づくりに向けて筋の通ったリーダーシップを発揮され、その数々の成果や功績は筆舌に尽くしがたいものがあります。
その間に公益法人協会の活動や行動が無かったら現在の公益法人制度は違った形になっていたでしょう。
改めて太田前理事長はじめこの激動期を乗り切ってこられた多くの協会関係者の方々のご努力、ご尽力に深く感謝申し上げる次第です。

そしてこの度、公益法人協会の創生時から関わりを持たれ、大学で教鞭を取られた後に公益認定等委員会委員を3期9年間務められた雨宮さんが理事長として戻られ、新体制がスタートしました。
新しく船出する協会には、多くのステークホルダーからの信頼を得ることを第一に率先して公益活動に取り組み、豊富な情報や高い見識により先を見通した方向等をしっかりと発信し共有することで、公益法人や非営利セクターにおける存在価値や進むべき道を分かりやすく明るくリードするパワフルな「タグボート」としての役割に期待したいと思います。

そのためには3年前に発表された公法協の10カ年経営計画「Project Coming10」にある、
① 民間公益活動を推進していくセンターを目指す-10年後に協会がしていること-
② 民間公益セクターのロールモデルを目指す、
③ 未完の「Project Coming10」を見直しつつ、今すぐ実行に移す
ことに着実にチャレンジする必要があります。

その公益法人協会の役割としては、民間公益セクターの「ハブ」的存在として、「キャパシティビルディング事業」と「アドボカシー事業」を両輪とし、その源泉としての情報基盤を整備拡充することを掲げていますが、各セクターのつなぎ役としての役割はますます重要となってくると考えます。

現在の3ヵ年中期計画に次ぐ新中期計画の策定が予定されていますが、具体的にはその中身に注目する必要があります。
制度改革10年の振り返りにより使い勝手の良い制度への見直し提言も重要ですが、協会自体が「あらゆる関係者や社会に向かって全職員が働きかけるアクティブなタグボート」への志向に徹することで、冒頭の深夜Liveではないですが、多くのステークホルダーが思わず引き込まれ、皆が支えるそんな公益法人協会の姿に大きな期待を寄せるものです。

2017年7月


新理事長就任あいさつと公益法人の信頼性

雨宮孝子((公財)公益法人協会 理事長)

2017年6月27日の評議員会及び臨時理事会により(公財)公益法人協会の理事長に就任しました雨宮孝子です。
公益法人協会には1974年から嘱託、専門委員、最後は理事として務めておりまして久しぶりの里帰りです。前職は、内閣府公益認定等委員会委員を非常勤を含め三期9年間、公益認定や監督等の仕事をしておりました。 

初心に帰り、改めて公益法人とは何か、その存在意義などを顧みると、最も重要なこと、またその根本にあるのは、社会からの信頼です。

今年の4月の新聞記事(2017年4月20日付け毎日新聞)に、(公社)全国老人福祉施設協議会(以下、全老施協という)の役員達が高級料亭で飲食をし、これを会議費で支出したことが、不適切な会計処理として内閣府公益認定等委員会(以下、委員会という)から報告徴収を受けたとの記載がありました。
全老施協とは、老人福祉及び介護に関する正しい知識の普及・理解の促進を図るため、調査研究、研修、相談事業、出版などを行う公益社団法人で、特別養護老人ホームやデイサービスセンターなどの施設や事業所が会員となっており、事業のほとんどを会費で賄っているようです。
この件が委員会で処理されている時期には、私は当該委員会の委員を退職しておりましたため、この事件は新聞報道で知りました。

通常、公益法人に対する委員会による監督では、不適切事例や法令違反等に対し、報告徴収、勧告、命令、認定取消しと段階を踏み、勧告以上は公表されます。報告徴収の段階では情報が公表されないため、新聞報道にあったように内部からの通報があったために事態が明らかになったと思われます。この事例では、過去4年間で3300万円以上の不適切支出があったようです。この事例だけでなく、公益財団法人でも内部で多額の使い込みが発覚したり、預り金の不正流用があったり新聞ネタは多く発生しています。

公益法人に対する会費や寄付金は、単なる支払いではなく、支払う個人、団体、法人の思いの詰まった意思あるお金です。公益法人の目的や事業に賛同して会費や寄付金を出したり、設立当初に一定の公益目的のために財産を出捐した個人や企業の思いを果たすため、公益法人の役員達は目的実現のために懸命に事業を行うことによって社会からの信頼をかちとることができるのです。
委員会の指摘を受けたから、役員が辞任したり、第三者委員会を設定し状況を究明するのではありません。公益法人を運営する役員の姿勢の問題です。

2017年6月


泥縄にだけは、なってほしくない

山岡 義典((公財)助成財団センター理事長、(特活)市民社会創造ファンド運営委員長)

「1,000人は要るだろうね」

こんな会話が、私のオフィスで飛び交っている。
休眠預金の活用が本格化したときのプログラム・オフィサー(PO)の数だ。
1人のPOが扱える資金は、多くて年5,000万が限界だろう(丁寧に扱うなら3,000万程度か)。
すると500憶の資金を配分するには、最低で1,000人が必要になる。そういうことだ。

資金配分という仕事は、一見、見よう見真似で誰にでもできる。
お金を欲しい人は、幾らでもいるからだ。
しかし、社会的な資源を、ただのバラマキに終わらせてはいけない。

今、何が必要で、どこに何を出すのが最も有効か、資金を生かして使うにはどうすればよいか。
それを考え抜いて「助成プログラム」を企画開発し、その実効ある運営を担うのがPOという専門職である。
広い視野と緻密な社会的技術を必要とする。現場との対話能力も求められる。
PO自体は日本には未だ少ないが、POという職名にこだわらなければ、同様の職務をこなす人は、助成財団などにもかなりいる。
しかし、余るほどいるわけではない。むしろ不足している。
だから、すぐにかき集めるということは、殆ど無理といってよい。

休眠預金に限らず、助成後の評価について語られることは多い。それも重要だ。
しかし、ズサンな助成プログラムからはズサンな成果しかでてこない。
そんな例に、ときどき出会う。
「どうして、こんないい加減な助成プログラムに応募しちゃったのかね」と、可哀そうになることもある。

助成後の評価が高いのも低いのも、多くの場合は、そのプログラムがしっかりしているかどうかにかかっている。
最初に入口としてキチンとした助成プログラムをつくることが、まず大事だ。
それを抜きにして出口の評価ばかりに熱をあげるのは、何とも滑稽に私には見える。
投資の順序が違うのではないか。

では、どうすればよいか。
大した妙案は私にはないが、まず使う資金を一気に増やさないことだろう。
POの成長に合わせて、増やしていけばよい。
その前提の上で、資金配分を担いたいところは、まず密かにPOの適材を確保して、潜在能力をつけておくことだ。
視野を広げておくことも、その重要な要素になる。
あとは試行錯誤しながら、自主事業のOJTで、しっかりと力をつけておくことだろう。
これからはPO研修なども増えるだろうから、アンテナを張って、中身を吟味しながら、適当と思われる研修に参加するのもよい。泥縄にだけは、なってほしくない。

2017年5月


三つの仮説 ―2016年度定点アンケートから―

太田達男((公財)公益法人協会 理事長)

公益法人協会では、2005年以降公益法人(改革後は一般法人も)を対象に、毎年7月前後に実情調査のためのアンケートを実施している。
このアンケート結果は、行政・立法当局等への提言・要望活動の重要な基礎資料として活用しているところである。

2016年度のクロス分析により、三つの仮説を立ててみた。
なお、この傾向値は過年度においても同様の傾向が見られているが、ここでは2016年度の数値により見てみよう。

仮説1:財団は社団に較べ、新公益法人制度により親和的である。

「今、自由に法人類型を選択できるとしたら、どの法人格を選択しますか」という公益法人に対する問いに、公益法人以外の法人格を選択するとした回答は、財団は11.3%、社団は22.9%と倍の開きがある。

「法人の運営上何か困っていることはありますか」という質問に対しては、財団は54.5%、社団は64%と、社団の方が制度上の困難を感じている率が高い。

「インターネットによる情報公開をしていますか」に対しては、ほぼ同様の率で公開はしているものの、財団88.2%、社団84%と、わずかながら財団の公開率が高い。
このことは、そもそも制度改革施行日の2008年12月1日現在の旧民法公益法人数24,317のうち、財団法人が49%であったが、2016年12月末現在の新公益法人数9,397に占める財団法人は56%に上昇していることからも窺えるところである。

仮説2:内閣府所管法人は都道府県所管法人に較べ不満が少ない。

「今自由に法人類型を選択できるとしたら、どの法人格を選択しますか」という公益法人に対する問いに、公益法人以外の法人格を選択するとした回答は、内閣府所管は9.9%、都道府県は19.9%と倍の開きがある。
また都道府県とはいっても中には、公益法人以外の法人格を選択したいという比率が40%を超えるところが4県あり、かなりのばらつきがあることも事実だ。

「法人の運営上何か困っていることはありますか」という質問に対しては、内閣府は52.3%、都道府県は62.1%と10ポイントの開きがある。
同様に80%以上が困っているというところが5県あり、ここでも都道府県にはバラつきがあることを指摘しておきたい。
尤も、この仮説は収支相償に対する不満度や立入検査の対応など運用の詳細については、大差がなくさらに検証する必要があろう。

仮説3:一般法人は公益法人に較べ運営上の障害は少ない。

「法人の運営上何か困っていることはありますか」という質問に対して、公益法人は58.8%が「あり」と答えているが、一般法人は22.3%と大差がある。
もちろん、これは制度上一般法人には行政庁による監督制度がなく、移行一般法人といえども公益目的支出計画完了後は、行政庁の手を離れるので、当然予想される結果であろう。

反面インターネットによる情報公開率は、公益法人の86.3%に対し一般法人は53.7%と低く、行政庁の監視がない一般法人に対し、どのように社会から評価の目を向けていくのか一つの大きな課題となろう。

2017年4月


非営利団体における「競業」をどう考えるか

片山 正夫(公益財団法人「セゾン文化財団」常務理事)

非営利セクターにおいて「協業」はよく使われる言葉だが、「競業」のほうはあまり耳にすることがない。
しかし、一般法人法の第84条(財団法人については第197条)には、「理事が自己又は第三者のために一般社団(財団)法人の事業の部類に属する取引をしようとするとき」は、「理事会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない」と規定されている。
この、当該法人の“事業の部類に属する取引”が、すなわち「競業」にあたるのだ。
ややわかりにくいが、まあ要するに、その法人と類似の事業活動にかかる取引を、外では無断でするなということである。
かりに理事会の承認を受けずにこうした取引を行った場合、理事は法人に対する損害賠償責任を問われることになる(同法111条/197条)。
 
なぜこのような話を突然持ち出したかというと、私の関わっているある公益社団法人の理事会で、執行理事の「競業」規程違反が問題になったからである。
その執行理事は、自身の専門的な知見を外部から乞われ、各種の委員や講演、パネリスト等を、個人として引き受けていたが、これが「競業」にあたるという指摘があったのである。
じっさい、当該法人の定款に定められた事業(公益目的事業)には、対象分野の団体・機関との交流・連携等が謳われており、事業報告書等には、委員に就任したり、講師として出講したりすることも、その事例として記載されていた。
にもかかわらず、執行理事個人の行ってきた同様の活動について理事会で承認されたことはなかったというわけである。

なるほど一般法人法に照らせば、外見上これは「競業」規程違反にみえなくもない。
だが正直なところ、これに私は多少の違和感をもった。

第一に、委員や講師というのは、ふつう“その人”に特定して依頼することが多いだろう。
依頼の際、個人名に所属法人の肩書が付いていたとしても、それは文字通り肩書として使っているに過ぎず、あくまで頼んでいるのは個人に対してである。
こうした場合、当該法人との間に「競業」関係は最初から成立していないといえる(その意味では、委員の就任を法人の「事業」と捉えること自体おかしい。
もっとも、依頼がその法人に対するもので、人選も法人に任されているケースもなくはないであろう。この場合はもちろん別である)。
第二に、収益を目的とした事業ならともかく、公益目的事業において、そもそも「競業」という概念が想定できるのかどうかということである。

この規定はもともと会社法のものであろう。
同法第356条にはほぼ同じ文言が見えるが、こちらのほうの趣旨は理解しやすい。
たとえば、不動産会社の取締役が、家に帰れば個人でも不動産業を営んでいるというような場合、状況によっては会社の仕事を横取りして家業のほうの取引にしてしまうことも可能かもしれない。
これは、会社の得べかりし利益を、取締役の立場を利用して個人のものにしているのだから、法律の専門家でない私から見ても、かなりまずい事態だ。会社に損害を与えたのと同じという理屈も理解できる。

では、これと同じことが非営利法人でも起こるのだろうか。
起こることも確かにあり得るだろう。
だが、問題を営利企業とまったく同じに考えてよいかというと、それも少し違うような気がする(現に特定非営利活動促進法(NPO法)には「競業」の規定はない)。
たとえば、奨学金を交付する財団の役員が、私財で市民ファンドに自分の名を冠した奨学金を設定したとしても、そのことで財団の利益が毀損される可能性はないだろう。

さらにいうと非営利法人の場合、「競業」はそこここで普通に起こり得る。
不動産会社の役員が、個人でも不動産取引をおこなうようなことは、そうしょっちゅうは起こりそうもない。
しかし私が仕事をしている分野でいえば、たとえば演劇関係者が集まって理事会を構成し、演劇の振興を目的とした公益社団法人を設立して、公演や調査やシンポジウムなどさまざまな事業をおこなおうとする場合、これはもう「競業」だらけとなるはずだ(じっさい先の公益社団法人でも事情は同じで、私を含めて「競業」している理事は多いと思われる)。

もちろん念のために言えば、「競業」は禁止されているわけではなく、理事会の承認という条件が課せられているに過ぎない。
しかしだからといって、これをいちいち(否、包括的にではあっても)理事会の案件にするというのは、煩雑という以前に、いったいどれほど意味のあることなのかと考えてしまうのである。

2017年3月


3.11と9・11 ‐日米被災者のきずなと3.11総合記念館構想‐

太田達男((公財)公益法人協会 理事長)

あれから6年、今年も3月11日の午後2時46分を迎えた。

いまだに行方不明とされる方々の数2,500人余、今も3万5,000人余りの被災者が仮設住宅で不自由な生活を余儀なくされている。
原発事故で強制避難を余儀なくされた被災者8万人のうち、故郷への帰還を果たした人は、ほんの数%、県外での避難生活を送る子供たちへの心ないいじめなどには、言いようのない無力感すら覚える。

3.11の10年前、9.11に発生した米国同時多発テロは、今年16年目を迎える。
米国では、翌年の2002年に早くも「9.11家族会」が結成され、IRS(内国歳入庁)により、日本の公益法人に相当する501(C)(3)パブリックチャリティと認定された(当初名称September 11th Widows' and Victims' Families' Association、現在 The September 11th Families' Association)。

この団体は、被害者家族への多面的な支援活動、記録史実の伝承などをミッションとし、ワールドトレードセンター跡地の向かいに建設された9.11追悼記念館(The 9/11 Tribute Center)も運営している。
この「9.11家族会」は、毎年3.11被災地を訪問、同じく家族などかけがえのない人たちを失った経験者として心のケアなど支援の手を差し伸べている。

そして、原発事故やテロなどの悲劇を二度と起こさぬよう後世への願いを残すため、世界貿易センタービルの鉄骨を使った折り鶴のモニュメントが、この家族会や日米のロータリークラブから贈られ、2012年12月に郡山市開成山公園に、ニューヨークの方向を向いて設置された。
この折り鶴の原型は、広島原爆の被爆により12歳で世を去った佐々木禎子ちゃんが折った2,000羽以上ともいわれる「サダコの折り鶴」で、そのうち一羽は9.11追悼記念館にも展示されている。
 
昨今、被災遺構の保存を巡って、夫々の現地では賛成論、反対論などさまざまな議論があるようだが、この1000年に一度とも言われる震災・津波や原子力発電の恐ろしい実態を後世に残す必要は誰しもが認めるところであろう。

9.11追悼記念館は、被災後僅か5年足らずの2006年6月に開館した。
日本でも、「せんだい3.11メモリアル交流館」が開館され、福島県では復興祈念公園が、釜石市では震災メモリアルパークなども構想段階のようだが、横断的で総合的な3・11総合記念館を考える時期に来ているのではなかろうか。

この記念館は、展示だけでなく地震、津波、大火、洪水などあらゆる自然災害と原子力災害の防災、減災、援災(発生後の支援活動)などの世界最高水準の研究拠点としての性格と、3.11被災者家族の多種多様な支援や、被災地の住民の手による復興をも目的とする多目的な組織として考えられないだろうか。

もちろん資金は、国や自治体が出捐し、企業、市民からも寄付を募り、そして運営は被災者家族の手に任せるのが良い。

9.11同様このような声が被災者の方々や多くの支援団体から起こることを期待したいものだ。

2017年2月


「助成財団フォーラム」への名称変更に思いを込めて

田中 皓((公財)助成財団センター 専務理事)

最近は俳句や川柳をたしなむ人が増えてきているようです。
テレビでも夏井いつき先生が著名人のゲストが作成した俳句を、容赦のない毒舌で評価・添削する姿が人気を博し話題となっています。
また、川柳は技巧にとらわれず、話し言葉で感情や情景を率直に表すのが特徴で取っ付き易いのかもしれません。

(公財)公益法人協会では(公社)日本フィランソロピー協会と共催し、2回目を迎えた昨年12月の「寄付月間」の取り組みの一環として「寄付川柳」を募集したところ、何と5,000件もの応募があり、現在優秀な作品の選定の真っただ中であるようで、結果の発表が楽しみです。
おりしも2月13日には、毎年恒例の「サラリーマン川柳」(第一生命保険)の入選100句が発表されましたが、今年で30回目、5万句を超える句が寄せられたのは20年ぶりだとか。
このサラリーマン川柳の過去の優秀作品を振り返ってみますと、その時代の世相を実に見事に反映し、その時代を鮮明に思い起こさせます。

過去の作品では、「ボディコンを 無理して着たら ボンレスハム」「ドットコム どこが混むのと 聞く上司」「『空気読め!!』 それより部下の 気持ち読め!!」等々。
今年の作品も同様で「一枚の トランプ世界を 撹乱し」「ものわすれ ふせぐサプリを 飲み忘れ」「ありのまま スッピンみせたら 君の名は?」等いまを象徴するキーワードを巧みに織り込んだ川柳が、入選100句に並んでいます。

(公財)助成財団センターでは、1985年の設立以来、会員向けの行事として年に1度「会員の集い」を開催。
その後名称を「助成財団の集い」と変え、本年からは「助成財団フォーラム」と名称を変更しました。
その間に取り上げられた講演やシンポジウム、セミナー、パネル討論などを振り返ってみますと、先の川柳ではありませんが時代を先取りするテーマを都度取り上げていて、その時代の課題を浮き彫りにしていることが良く読み取れます。

「フォーラム」に名称を変えた背景は、明2月16日のフォーラム当日に理事長から話があることになっていますのでここでは触れにくいのですが、ポイントは助成財団間の仲間内だけの情報交換に止まらず、その活動や成果をより多くの方々に知ってもらうため、助成に係わりのある、関心のあるより多くの方々が参加しやすく、気軽に意見交換が出来るオープンな交流の場にしていきたいとの思いが強くあります。

昨今は非営利組織の活動を支える資金も、民間助成金のほかに地域ファンドや公益信託、休眠預金、遺贈寄付など時代の変化と共に官民による多元化がどんどん進展しています。
その中で助成財団の自らの役割やポジションをしっかりと認識し、時代を先取りした事業を展開するためにも「フォーラム」等を通しての関係者間の意見交換や交流が強く望まれます。

助成の在り方も、これまで中心的であった公募型助成一辺倒から脱却し、財団の主体的、能動的な助成事業を展開すること、その一例として今回のフォーラムのテーマでもある財団の意思による非公募助成等にもチャレンジしていくことも必要になってくるでしょう。

そのためには、非公募助成に対する公益性の認定の問題や助成財団自身の体力強化、財政基盤強化を阻害しかねない収支相償の問題は大きな壁となっています。
これをクリアし、財政的な余力を持った財団運営が実現できてこそ、社会のニーズに応えられる臨機応変な助成活動が可能になります。

現在、公益認定等委員会の会計研究会で検討されている「特定費用準備資金」が、将来の事業拡大のための資金に加え、将来の収支変動に備えた資金として活用しやすくなることや、加えて当期の公益目的保有財産を金融資産として取得し事業の「維持、拡大」に活用しやすくなる等の運用・解釈が実務に則した形で実現されることを切に要望し期待するところです。

今回の「フォーラム」への名称変更に込めた思いを多くの関係者にご理解いただき、その思いを貫くために制度、実務の両面からの課題解決に引き続き注力していきたいと考えるところです。

2017年1月


三題話とFiduciaryの精神

太田達男((公財)公益法人協会 理事長)

公益法人はじめ公益非営利組織の皆様、明けましておめでとうございます。

さて、ご承知のように昨年12月「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」が成立し、1年半後の施行が予定されています。
また、公益信託制度の抜本的改正が、現在法務省の法制審議会で審議中であり、2018年には新法が国会に提出される動きになってきました。
もう一つ、資産を公益のために寄附する機運を普及促進し支援しようという「全国レガシーギフト協会」が昨年11月に設立されました。

これらは、一見夫々別々の動きのように見えますが、その根幹に流れるものは、民間資金を非営利公益団体が社会的課題を解決するために必要な活動資金として、役立てようというものです。
休眠預金活用制度では、年間500億円前後の資金が民間公益活動に廻ることが予想されています。
公益信託では現在600億円前後の残高ではありますが、一定の要件を充足する公益法人等も受託できる方向で制度設計が進んでいますから、期待される公益法人並みの税制整備と相まって、かなりの信託資金の流入が期待できます。
また、遺贈による資産の寄附は、米国の場合187億ドル(約2.1兆円)、わが国では僅か300億円程度と米国の1.4%ですから*、今後の伸びしろが相当期待できます。

これらの資金の多くは、助成財団など資金的支援を事業活動の中心に据える非営利法人が配分団体として預託、寄附もしくは信託を受け、現場で活動する団体に助成、貸付、出資などの資金的支援をするという構図になります。

そこで私が声を大にして言いたいことは、これらの団体にはしっかりとしたガバナンスにより運営され、法令遵守はもとより公益組織としての最高度の倫理観を持ち、そして透明性の高い行動が最低条件として必要であるということです。
また配分団体の場合はさらに、適切な助成先を選考する公正無私で、支援する事業の必要性についての眼力を兼ね備えた選考体制の構築が不可欠と思います。

信託形式の場合はもちろんですが、休眠預金もレガシー寄附も他者から信じて託された預かりものという意識が必要です。
ひと言でいうと受任者(Fiduciary)としての義務があることを肝に据えていただきたいということです。

休眠預金、公益信託、レガシー寄附いずれも、万一不適切な管理・使用があった場合取り返しのつかない事態になります。
すなわち社会からの信用を失うとその当事者に対するだけでなく、制度そのものへの不信感があっという間に広がってしまいます。
このようなことが続くと、規制当局の規制が強まり、非営利組織の最大の特徴である創造的、先見的、迅速な活動が制約されることになりかねません。

このコラムをお読みの皆様には釈迦に説法と思いますが、年頭に当たり敢えてこのことを強調し、併せて皆様にとって更なる飛躍の年となるよう祈念いたします。


*出所:日本は、平成25年財務省資料「相続税の課税状況の推移」による。
    米国は、"Internal Revenue Service Data Book 2014" Table 1, 5,
    および "SOY Tax Stats-Estate Tax Filing Year Table 2014" Table 3による。

2016年12月


もう一つの公益? もう一つのクリスマス・プレゼント?

山岡 義典((公財)助成財団センター理事長、(特活)市民社会創造ファンド運営委員長)

この12月2日、「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」(通称、休眠預金活用法)が成立した。 市民と議員の協働立法でもある。
施行には1年半あるものの、ちょっと早いクリスマス・プレゼントかと喜んだ人も多いことだろう。

この法律の目的は、第1条に次の通り。
「休眠預金等に係る預金者の利益を保護しつつ、休眠預金等に係る資金を民間公益活動を促進することにより、国民生活の安定向上及び社会福祉の増進に資すること」。

〈なるほど、民間公益活動ね、いいじゃない〉と思いつつ預金管理等の聞き慣れない難解で退屈な(しかし本当はとても大事な)条文を読み進むと、下記の第16条に出会う。

「休眠預金等交付金に係る資金は、人口の減少、高齢化の進展等の経済社会情勢の急速な変化が見込まれる中で国及び地方公共団体が対応することが困難な社会の諸課題の解決を図ることを目的として民間の団体が行う公益に資する活動であって、これが成果を収めることにより国民一般の利益の一層の増進に資することとなるもの(以下「民間公益活動」という。)に活用されるものとする」。

〈ふむふむ、これが民間公益活動ね、何だか前後の形容句が長々とおせっかいじみているけど、まあいいか〉と納得しながら第17条に進む。

ここで頭が急に混乱してきた。
「公益に資する活動」すなわち目的にいう「民間公益活動」とは次のことだと言うのだ。

「 一 子ども及び若者の支援に係る活動
 二 日常生活又は社会生活を営む上での困難を有する者の支援に係る活動
 三 地域社会における活力の低下その他の社会的に困難な状況に直面している地域の支援に係る活動
 四 第三号に準ずるものとして内閣府令で定める活動」。

〈ん、これだけ? 突然、どうして?〉

特定非営利活動促進法第2条の別表には20項目の「特定非営利活動」が掲げられており、公益認定法第2条の別表には23項目の「公益目的事業」が掲げられている。
ここにまた、4項目の「公益に資する活動=民間公益活動」が登場した。

前2者はかなり重なり合うところがあるが、今回の「活動」は拡大解釈しても前2者の半分くらいしか覆わない。
「非営利」と「公益」、「活動」と「事業」、微妙な意味合いの違いはあるが、2つの第2条別表のどちらかで何とかならなかったのか。
公益概念がまた混乱してこないかと心配だ。

しかも、この限られた公益分野に毎年500億の資金が天から降ってくる。あるいは地から湧いてくる。
全国民が頑張って集めた赤い羽根の共同募金が約200億を低迷という世界だ。
寄附を地道に集めるのが空しくなってくる。
寄附の文化を育てようという心情や行為に、この500億は馴染まない。
もしかしたら、このクリスマス・プレゼントは、日本初の寄附月間に、とんだ冷や水を浴びせることにならないかとも心配だ。

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