2016年11月


非営利法人法制の再構築

太田達男((公財)公益法人協会 理事長)

来年4月から社会福祉法人制度が大きく変わる。

意思決定機関であり役員選任機関としての評議員会の必置、理事・監事の役割と義務・責任の明確化、一定規模以上の法人に会計監査人を必置とするなどガバナンス体制の強化、超過内部留保額の社会還元など財務規律の強化、法人および所轄庁による情報公開の徹底、そして報告要請、立入検査、勧告、命令、解散命令など所轄庁の監督権限の明確化などが主たる内容である。

新制度に備え、2万前後の各社会福祉法人は、新定款や役員報酬基準など各種規程の起案、評議員をはじめとする役員等の人選、そして財務体質の見直しなどに懸命に取り組んでいるが、まさに、8年前に始まった公益法人制度の大改革を彷彿とさせる改革である。
 
社会福祉法人は、福祉サービスを提供する高い公益性と非営利性を備えた民間の法人として、税制上も公益法人と同様の優遇措置を受けている法人であり、同じ公益非営利セクターの一員としてこの改革を歓迎し、その目的が円滑に達成されるよう期待するものである。
 
ところで、新社会福祉法人制度の法的枠組みは、一般法人法における財団法人の規律とほぼ同じであり、所轄庁の監督や情報公開も公益認定法に範を採るところが多い。
 
公益法人制度およびその法人根拠法である一般法人法は、色々問題点も内包はしており改正を必要とする点も多いものの、数ある非営利法人法制の中では、現時点では一種の到達点としての位置づけができるものである。
2011年の特定非営利活動促進法大改正、就中認定部分も公益法人法制が参考にされたが、今回の新社会福祉法人制度も含め、今後、学校法人、社会医療法人、更生保護法人など公益型非営利法人法制の再構築が論議される場合も参考とされることとなろう。

もちろん、各種非営利法人は異なる公益目的事業を担うものであるから、事業法としての側面はそれぞれの規律が求められるが、機関設計、情報開示、会計基準など法人運営に係る基本的な規律は、学校法人であっても、社会福祉法人であっても、公益法人であっても異なるものではないと思う。
まして税制支援措置が近似化している公益型非営利法人にあっては、ガバナンス体制や情報公開の中身に差異のあること自体が国民の目から見て奇異に映るであろう。

今回の社会福祉法人制度改革は、私たち非営利セクター全体にとっても、その意味で大きな意義を持つものと考える次第である。

2016年10月


「障がい者アート」を超えて

片山 正夫(公益財団法人「セゾン文化財団」常務理事)

リオ五輪も終わり、いよいよ4年後の東京オリンピック・パラリンピックに向けた本格的な助走が開始されるが、われわれ芸術文化関係者の関心は、どのような文化プログラムがこれから進められていくのかという点にある。
 
もともとオリンピックは、スポーツの祭典であると同時に文化の祭典でもある。
オリンピック憲章には、「スポーツと文化・教育をひとつにする」ことがオリンピズムの希求するものであると謳われており、組織委員会は文化プログラムを開催することが義務づけられている。

たとえば前々回のロンドン大会では、その前の北京大会終了時から4年間のあいだに、英国全土1,000ヵ所以上で文化プログラムが展開され、4,300万人もの人々がこれに参加したという。
なかでも特に世界の人々に強い印象を残したのは、障がいをもつアーティストの創作活動を支援する“UNLIMITED”というプログラムであった。
車いすに乗ったまま水中でダンスするスー・オースティンの印象的なビジュアルをご記憶の方も多いであろう。
 
こうした動きにも刺激されて、東京大会に向けては、障がい者によるアートにこれまで以上に関心が集まりそうだ。
すでに東京都は、文化ビジョンで「障害者アート」への支援を明記し、傘下のアーツカウンシル東京でも「障害者アート」を主たる対象とした「芸術文化による社会支援助成」を開始している。
民間でも、日本財団が「パラリンピックサポートセンター」を設置し、「パラリンピックとアーツ」を主題とした勉強会を発足させた。

もちろんこれまでも、障がい者とアートを結ぶ取り組みは、日本でも数多く行われてきた。
ただそれらは、どちらかといえば福祉的な視点に立ったものが多かったといえる。
つまり、アートを媒介として障がい者の社会参加を促すというスタンスだ。
これはこれで非常に意義のある活動だろう。
しかしアートのユニークな価値はそこにとどまらない。

舞踊評論家で、われわれの財団の評議員も務めていただいている石井達朗氏は、「『障害者スポーツ』という言いかたがあるが、ダンスではそのようなジャンルは必要ない」と言い切る。
まさにそうなのだ。芸術において、障がい者かそうでないかは全く関係がない。
障がいに応じた何がしかのサポートは必要としても、こと表現というレベルでは、ハンデキャップ自体が存在していない。
スポーツがオリンピック/パラリンピックと区分されているからといって、これにそのまま倣うことはないのだ。

“UNLIMITED”はまさにその発想に立ったプログラムであった(ようにみえた)。
しかしそれでも参加アーティストからは、“障がい者”として捉えられることへの戸惑いの声があったという。

最近日本でもNHKの番組が「障がい者を“感動的に”描くことは果たして必要なのか」という問いかけを行い、大きな議論となったが、アートの世界はこうした“特別扱いされる居心地の悪さ”を乗り超えうる最初の領域ではないだろうか。
障がい者による「障がい者アート」と呼ばれないアートを、東京から発信したいものだ。

2016年9月


「理事会を黙って聞いて、判を押すだけの監事にはならない」―ノーベル賞受賞者 大村智博士―

太田達男((公財)公益法人協会 理事長)

私は、日経新聞朝刊「私の履歴書」の愛読者である。
それぞれの立場から社会に大きな貢献を成し遂げた方々の生き様は、夫々感動的であり自らを省みて反省しきりとなることも多い。

中でも最近のものでは、2015年生理学・医学ノーベル賞受賞者の大村智博士の、アフリカの風土病に苦しむ2億人以上の人々を救った抗寄生虫薬の発見者としての学究の道のりはもとより、美術への造詣、さらにはゴルフもシングルという腕前という、多彩な履歴に瞠目させられたものである。

しかし、ここで取り上げたいのはその23回で、博士は学校法人北里研究所の監事を拝命されたが(1981年)、「理事会を黙って聞いて、判を押すだけの監事にはならない。
そう思って、研究所の経営実態をつぶさに調べること」にしたというくだりである。
そして、経営や財務は全くの素人であったが、専門書を読み漁り、それに止まらず伝手を頼って専門家から月1回の個人レッスンを受け、また複数の経営者からも話を伺い、博士の表現を借りれば「気が狂うかと思うほど大変だった」という猛勉強をされ、何時倒産してもおかしくない状況を把握し、ついには改革案を理事会に提出された。
そのような危機的状況を知っていた理事は、何と7人中1人だけであったとも述懐されている。

まさに、非営利法人の監事の役割、その義務と責任といったことを博士は直感的に感得され、また、その実践のため全力を尽くされた経緯が、短い文章ではあるが見事に述べられていると感動した次第である。

監事は、いまさら言うまでもなく、業務執行の決定機関である理事会を監査する立場であり、理事の職務怠慢や違法行為を厳しく監査するもので、いわば法人ガバナンスの要ともいうべき存在である。
昨今、公益法人においてすら色々な不祥事件が起こり、その際決まって指摘されることは、ガバナンス体制の欠如である。
もちろん理事(会)が、第一義的に業務執行責任を負うべき立場にあるが、それを執行部から独立的に監督するのが監事の役目である。

世の中の非営利法人の監事職にある人数は、公益法人をはじめ、一般法人、特定非営利活動法人(いわゆるNPO法人)社会福祉法人、学校法人等などをあわせおそらく30万人を下らないと思うが、いくつかの法人の監事を任命されている私も含め、まさに大村博士の「理事会を黙って聞いて、判を押すだけの監事にはならない。」という名言を、拳々服膺し自戒したいものである。

そして履歴書最終回、博士は「至誠惻怛(しせいそくだつ)」という言葉を、北里研究所の若い人々に贈られたということも付け加えたい。
私は浅学にしてその意味を知らなかったが、「誠を尽くし、いたわりの心をもって人に接する。そうすれば必ず道は開ける」と博士は注釈されている。

2016年8月


社会が求めるわかりやすい公益法人制度を目指して

田中 皓((公財)助成財団センター 専務理事)

暑中お見舞い申し上げます。
今年は台風の発生が例年の半分程度、しかもこれまでに上陸した台風はゼロという珍しい気象現象だそうですが、日本列島の各地の最高気温の上昇傾向には歯止めがかからず猛暑が続いています。

加えて今年は、開催が心配されていた第31回オリンピックが無事開幕され、昼夜逆転のリオでは、これまでに日本の体操、柔道、競泳等のメダルラッシュにより大きな感動と極端な睡眠不足をもたらしています。女子体操団体は4位とメダルには届きませんでしたが代表5選手の平均年齢は18歳だとか。
リオでは体操ばかりでなく、日本選手団の若返り、初参加選手の活躍が目立ちベテラン選手とのチームワークは頼もしい限りです。
その背景には、国立科学スポーツセンターやナショナルトレーニングセンターなど、選手を心身共に育成するための環境がしっかり整備されてきていることもあるようです。
また、男子柔道での全階級メダル獲得という日本柔道復活の偉業は、若手の台頭と世界の柔道界の潮流を徹底分析し、お家芸の枠を脱皮し世界に対抗できる技と力、精神を再構築してきた日本柔道界の努力ともいわれています。
東京オリンピックに向けては多くの競技種目での活躍を期待したくなりますが、今回のリオ・オリンピックでは、スポーツばかりでなく何事にもしっかりしたバックアップ体制の重要性と環境変化へ適確な対応の重要性を再認識させられたような気がします。

最近の日本社会・政治・経済の環境変化は、1月29日:日銀が初のマイナス金利導入を決定、6月1日:消費税増税の延期決定、6月2日:「経済財政運営と改革の基本方針2016」(骨太方針)や「ニッポン一億総活躍プラン」を閣議決定、7月10日:与党が過半数を確保した参議院議員選挙、18・19歳の有権者が初投票、7月31日:組織票のない小池候補が圧勝し、初めての女性都知事が誕生した都知事選挙、そして8月8日:天皇陛下のお気持ち表明、また今日は、安保関連法の廃案を訴え、斬新な活動スタイルで政治に立ち向かった学生や若者中心のシールズ(SEALDs)が解散、などなど目まぐるしいものがあります。

この目まぐるしい動いきも激しい社会の変化に対応していることの表れとも言えますが、限定された範囲の公益法人界においても、7月29日に公益認定等委員会が「平成28年度会計研究会の開催について」を発表し、これまでの課題に対処すべき今年の研究会の「検討項目、検討体制、スケジュール」を公開しました。

具体的な検討事項として、特定費用準備資金や公益目的取得財産残高、遊休財産の算定、定期提出書類、公益法人会計基準の整合性等に係わる課題を掲げていますが、いずれも重要かつ適切な課題であり詳細は「公益法人information」に掲載されている文書を是非ご確認ください。

これに対して、公益法人協会からはご高承の通り太田理事長のステートメントが発表されておりますので8月2日付メール通信を合わせてご覧ください(*)。

検討事項例の中で1.の1)「特定費用準備金資金の運用の点検と見直し」は、特に明確化が必要なものの1つと考えています。
資産の運用収益や寄付収益以外に収益拡大の手段を持たない助成財団等の法人にとっては、特定費用準備金資金や特定資産の金融資産での保有が、将来に予定された事業の実施や事業の拡大だけに限らず、将来の収支変動に備える積立資金として安定的、継続的な公益事業の維持にも活用できるよう明確化することは、これまでも要望し続けている通り必須の重要課題であります。

また、ステートメントでは公益法人制度に関する法律や制度の運用問題を会計研究会(メンバー6名は公認会計士)の場だけで議論することには違和感を覚えると記載されていますが、全く同感であり、より広く立場からの意見を求められるよう先日公益認定等委員会にも直接申し上げたところでもあります。

また、これらの提言・要望は公益法人界からだけでなく、社会課題の解決を促進するための新しい資金の流れを拡大するために、公益法人制度を更に活用していこうとする寄付者や篤志家が公益法人を簡便に設立出来て、運営しやすい制度に改正するべきとの観点からの新経連の要望等も大変重要なことであります。

公益法人制度が社会に必要な、そして役立つ制度になるよう育てたいとの思いは誰しも同じであり、26年度会計研究会の報告書に対する意見として要望した中でまだ解決されていない提言・要望も含め、この機に改めて要望し直し、より多くの関係者の知恵や意見が反映される形で検討が進められることを切に願うものです。

(*)【太田理事長ステートメント】公益認定等委員会会計研究会の開催に当たって
    http://www.kohokyo.or.jp/kohokyo-weblog/non-profit/2016/08/post_212.html

2016年7月


トラストオフィサーと非営利組織の役員 ―求められる資質―

太田達男((公財)公益法人協会 理事長)

営利事業として信託業が発展した母国は米国であるが、信託会社や商業銀行の信託部門で働くトラストオフィサーは、金融機関でも特別の資質が要求されかなり地位も高い職業であるようだ。
そのため、将来トラストオフィサーを志す人を対象とした専門教育も、大学や銀行協会信託部で盛んに行われていたが(過去形にしているのは、筆者が見聞したのは数十年も前であるためだが)、1960~70年代に大学でその分野で教鞭をとっていたノーマン・ウイギンスという人が書いた「職業としての信託業(原題 The Trust Business as a Career)」(*1)で、信託業につくための適性として大きく知的素養と精神的資質を挙げている。

知的素養は「法律的素養」「会計的素養」「投資に関する素養」「経営分析能力」を必須とするものだが、それと同時に6つの精神的資質を挙げている。

精神的資質は、まず「根気」という。トラストオフィサーはあらゆるタイプの人と接触する機会があるが、冷静に根気よく説明し、時によっては相手を説得する能力が必要ということだ。
次は「感情移入(Empathy)」ということで、これは共感(Sympathy)を超えて、相手と同じ立場になり怒り、悲しみ、喜ぶ事のできることを指す。
3番目は「正確性」、推量や曖昧な説明ではなく、常に正しい見解を告げる必要がある、即答できなければ調べて答えること。
4番目は「積極性」ということで、質問や問題から逃げずに前向きに対応する、場合によっては「NO」という勇気も必要という。
5番目の資質は「機転」とする。「機転」とは「他人との折衝の過程で何を言い、何をするのが最も適切かについて、咄嗟に的を得た判断」をすることのできることを言う。
そして最後に「ユーモアのセンス」。常に折衝や会話の中でしかめ面で終始するのではなく、絶えず笑みを浮かべユーモアを交えて話し合う能力ということ。

私は、信託マンを長年の職業としてきたが、確かにこれらの素質が必要だと共感するところがあった。尤も、私自身にそのような素質が完備しているとは、とても思えないのではあるが。

それはともかく私は、公益非営利組織の役員に求められる資質は、トラストオフィサーに求められる精神的資質と同じではないかと思う。
トラストオフィサーは、善良なる管理者の注意義務や忠実義務などをはじめとして、いわゆる受認者(Fiduciary)としての義務を負い、受益者のために常に最善の解を見出すことを求められる仕事である。

そして、公益非営利組織の役員も、不特定多数の利益である公益を追求し、財産管理はもとよりその事業においても最善の選択をする義務があるからだ。

岩井克人教授(当時東京大学大学院)は、「公益法人は―もっと広くNPO法人といってもいいが―
信任関係なるものを二重に引き受けている存在である。」と説いた(*2)。
すなわち、公益法人は社会から信認を受けており、理事者はその法人から信認されているという意味で二重のFiduciary というわけだ。

昨今、非営利組織に関連する不祥事件を耳にする中、私たちは自戒を込め、改めて二重Fiduciaryと
いうこと、そしてFiduciary に求められる精神的資質(できれば知的素養も)を想起したいものだ。

(*1) 1976年、三井信託銀行信託部訳 社内参考資料
(*2) 2002年11月25日、公益法人協会30周年記念シンポジウム
         「21世紀市民社会と公益法人」における発言(『公益法人』2003年1月号収録より)

2016年6月


豊かな関西文化を育んだ志の物語

山岡 義典((公財)助成財団センター理事長、(特活)市民社会創造ファンド運営委員長)

この3月末、ミネルヴァ書房から一冊の本がでた。
「「志」の源流と系譜」を副題にもつ『文化を支えた企業家たち』だ。

かつて設立間もないサントリー文化財団で事務局長として活躍され、後には専務理事も務められた伊木稔さんの著作である。
まず各章のタイトルだけを掲げると下記の通り。
 序 章 文化を支えた人々―商人・企業家・経営者
 第一章 民間公益活動の先駆者たち
 第二章 近世商人が支えた学問・文化
 第三章 近代企業家の文化・社会活動
 第四章 現代企業の文化・社会貢献
 終 章 志が支えるもの―「民からの公共」から「民による文化」へ

序章で著作の視点を明らかにした上で、第1章では、古代から中世、近世と続く民間人の社会文化活動を、先駆的な担い手を軸に地域的な展開として描き出す。
第2章では、近世の商人たちが地域の学問・教育の発展にいかに大きな役割を果たしてきたかを全国的に見渡した上で、大坂の含翆堂と懐徳堂について詳しく成立過程を分析する。
第3章では、大阪を中心とする明治の経済界のリーダーたちの強い公共・公益活動への思いを描き、医療・福祉分野と学問・教育分野での活動事例を紹介、近代の企業家たちの志を育んだものが何であったかに思いをはせる。
第4章では、戦後の企業フィランソロピーの流れを概観し、鳥井信治郎から佐治敬三へと継承されたサントリーの文化・社会活動について詳述するとともに、企業博物館の現状について実態を分析する。
終章では、将来に向けた著者の思いを語る。

伊木さんとは、事務局長をしておられた頃から私も研究会などでご一緒した思い出がある。
ちょうど私が、助成財団センターの立ち上げに奔走していた頃でもあり、側面的にご協力もいただいた。
大阪を拠点に幅広く文化的実践活動に携われながら、企業の文化活動について思索・考察し、歴史的な視点や人の思いを重視しながら事例分析を重ねて執筆してこられた。
現在は大阪商業大学教授として商業史博物館の館長もされておられるから、まさに人と立場を得た著作で、これまでのご活躍の総仕上げともいえるだろう。

民間公益活動の存在する意味を深く考える上での貴重なヒントが、本書には随所に見え隠れする。
文章も平易で味わい深い。実践に携わる多く方に読んでいただきたい本だ。

2016年5月


NPOの信頼性と力量向上を目指し

太田達男((公財)公益法人協会 理事長)

全国の非営利組織(NPO)を対象とする我が国初の評価機関、一般財団法人「非営利組織評価センター」(JCNE)が、4月1日に誕生しました。

高齢者ケア、子育て環境、貧困格差などを始め、文化芸術の継承・振興、国際的NGO活動、難病や障害に苦しむ方々の支援等々、様々な社会的課題に取り組んでいるNPO活動に対する期待は益々高まってきています。
これらのNPOには1万弱の公益法人、5万を超える特定非営利活動法人、2万近くの社会福祉法人などが典型的ですが、平成20年の公益法人制度大改革によって、登記だけで設立でき、認可・監督官庁もない、それこそ究極の自由が保証された一般法人制度により新しく設立された一般社団・財団法人も、既に3万近くと推定されています。その他旧公益法人や旧中間法人から移行した一般法人も1万5,000ぐらいあります。

これら10万を超えるNPOの中には、公益活動とはとても言えないような事業を実施しているところもあり、また、その運営がきわめて杜撰な組織もあり、いわば玉石混淆であることは、識者の指摘するとおりと思います。

JCNEは、NPOを寄附やボランティアにより支援する一般市民をはじめとして、その事業の利用者(受益者)、助成財団、事業委託等の契約の相手方(企業・行政など)、そして研究機関など広範囲なステークホルダーに活用してもらうことを想定して、NPOの組織情報を一定の基準により評価し、これらの方々に参考情報として提供することを事業目的としています。

しかし、評価事業はあくまでも手段であり、JCNEの描くビジョンは、この手段を通じてNPOの力量を質量ともに高め、社会的な信頼性を高めていくところにあり、それにより多くのNPOが、行政や市場経済では担えない分野の社会的課題の解決に重要な役割を果たすというゴールを目指しています。

公益法人協会は、欧米ではNPO評価機関があり、NPO活動の発展に大きく貢献している現状を知り、我が国でもこれを導入すべく2003年に研究会を組織し、その提言となる報告書も公表したところではありますが、時期未だ熟せず実現には至らなかった経緯があります。

今回、多くのNPO 支援組織の賛同を得、また公益財団法人「日本財団」の全面的バックアップを受けて、JCNEが設立されたものです。
このような経緯もあり、大変微力ではありますが、私が初代の代表理事を兼務させていただくこととなりました。

創設されたばかりのJCNEは、当面試行錯誤的に運営されていくものとは思いますが、先に述べたような理想を大きく掲げて、成長していきたいと考えています。
どうか、このJCNEにも、公益法人協会同様、関係各位のご指導ご鞭撻をいただきたくお願い申し上げます。

 *事業紹介のWEBサイトは、http://jcne.or.jp/

2016年4月


再考・評議員会

片山 正夫(公益財団法人「セゾン文化財団」常務理事)

3月決算の公益財団法人にとって、新年度に入った今ごろは何かと慌ただしい時期である。
決算作業に続いて、5~6月の理事会・評議員会に向けての準備が本格化するからだ。

人手の少ない多くの法人にとっては、ボードを2つも運営していく負担は決して小さなものではない。もちろん負担であっても法律で決まっているとあればやらざるをえないわけだが、問題は、評議員会の存在が法人の適正運営に役立っていると感じている現場の実務担当者が、一体どれだけいるのかということだ。

評議員会が意思決定機関として重要事項を決議し、理事会の業務執行を監督する今の制度は、主務官庁制の廃止に伴う自律的なガバナンス強化への要請から導入されたものである。同時に、一般企業におけるガバナンス重視の潮流を受けたものでもある。

だがそもそも公益法人におけるガバナンスとは何を目指しているのだろうか? 不正を見抜き、不祥事が起こらないよう防止することだろうか? 

もしそうした機能を重視するのなら、評議員会の設置効果は少々疑わしい。じっさい企業で起こっていることをみれば明らかであろう。先の東芝不正会計事件でも、衝撃的だったのは、東芝が日本を代表する名門企業であったからだけではなく、同社がほとんど最初の委員会設置会社であったからだ。ガバナンスにはとりわけ熱心な会社だったのである。

一般論として言えば、非常勤の社外取締役に、周到に仕組まれた執行の不正を見抜くことなどほとんど不可能に近いだろう。むろんそのことは、企業経営者の側も内心では解っているはずだ。いわばアリバイ作りのために、コーポレートガバナンス・コードに従ってみせているというのが本当のところではないか。

もうひとつ、公益法人のガバナンスに期待されるのは、執行が正しい(すなわちミッション達成に向かう)方向に向いているか否かを監督し、向いているのならこれを支援し、向いていないのならこれを正すということであろう。これは非常に重要なところだ。けれども、評議員会を設置しなければこれができない、あるいは評議員会があることで初めてこれが可能になると、なぜ言えるのだろうか?

公益財団はすべて理事会が必置となっている。そこには通常、「業務を執行する理事」と、「業務を執行しない理事」がメンバーとして存在している。そしてそのどちらもが、理事会において業務執行に関する決定をおこなうことになっている。ところが実際には業務を執行しているのは、いわゆる「事務局」であり、少なくとも日常業務においては、執行の決定は「事務局」の代表者(肩書きはさまざまである)によっておこなわれている。

そうであるなら、実態どおり、「事務局」代表者のみを代表理事=業務執行理事として執行責任と権限をそこに集中させ、理事会は代表理事以外すべて外部の理事によって構成すればよいのではないだろうか(多くの場合、現状はすでにこれに近いだろう)。そして法人の方向性や経営における重要事項の決定と、代表理事の業務執行にかかる評価をその場できちんおこなうようにすれば、このうえ評議員会という機関は必要ないはずだ。

もともと財団の評議員会は、社団法人における社員総会と違って、その正統性(legitimacy)自体が大いに疑わしいものだ。「出捐者の意思を体する」機関だともいわれるが、もとをただせば「中立の立場にある者」が参加する委員会によって選定されたメンバーに、「出捐者の意思」が憑依するというのは、やはりストーリーとして少々苦しいと言わざるを得ない。

実務担当者に聞いてみればわかるが、外部の理事は、実質的には評議員と何ら違いのない存在なのだ。そうであれば、「いや制度上は全然違う存在だ」と強弁するよりも、かれらに執行の支援と監督を委ねればそれでよいではないか。かれらにその役割が果たせないのなら、評議員にも同じ理由で果たせないであろう。

「機関を重装備にしさえすればガバナンスが機能する」という信仰は、実務を担う人々に無用の負担をかけることになりかねない。この負担も社会的にみれば立派なコストなのだが、数字として目に見えず、それと認識されないのが何とも厄介である。

2016年3月


あの日から5年

太田達男((公財)公益法人協会 理事長)

今年もあの日から5年を迎えた。
復興庁の発表資料等だけを見ると、避難者数はピークの47万人から18.2万人に減少、2016年1月末で高台移転は30%、災害公営住宅は47%が完成、農水産業は元の80%前後まで再開可能などの数字が並ぶ。

しかし、この数字を見て被災地の復興は7~8割まで進んでいると思う人は誰もいないだろう。
現実に高台や内陸部に居を構えた人は、僅か1割にも満たない。浸水域の利用に至ってはほとんど手付かず、仮設住宅(みなし仮設住宅をふくむ)での不自由な暮らしを強いられる方たちは、今も約14万人にもなるという。そもそも、地域によって復興の格差は大きく異なる。

放射能被害が重なった福島の避難指示解除準備区域でも、帰宅する意向を示した人は、例えば葛尾村では僅か6%程度という。生まれ育ち、生活の生業を続けてきた故郷が失われ、戻って来ても高齢者が中心で、若い世代は新たな生活を新たな場所で再建し、それが定着しつつあるというのが現状であろう。南三陸町では人口の3分の1が、65歳以上(全国平均では4分の1)という超高齢化先端地域となっている。

単に、元のコミュニティを再建することは、現実問題として不可能とすれば、単に元に戻す復興ではなく、新しいコミュニティを創造するという視点が重要だろう。その意味で、住民の合意形成が基本になるべきは当然であるが、これを助言する外部の専門家集団による新しい発想も必要となろう。
そして、これらのマクロ的な課題と同時に、地域や個人個人の事情から生ずる復興格差も忘れてはならない。災害の恐ろしい記憶、家族との別離、将来の不安など、心の痛みは千差万別だ。

公益法人の専門的知識、資金、そして何よりも利他主義を旨とするその使命こそ、今も3.11復興支援に向けて、政府や企業ができない部分を埋めていくことができる組織と思う。

公法協が毎年実施しているアンケートによれば、(移行期間中であることや、対象母数に差異があることから一概にはいえないが)2012年度では公益法人・一般法人の26%が何らかの支援事業を実施していたが、2015年度では13.4%に減少している。
公益法人・一般法人や特定非営利活動法人など非営利組織は、資金的にも職員数も少なく、できることは限られてはいるが、その規模に応じた支援対象は必ず存在する筈だ。その中で自分ができる何か一つをだけでも選んで、できれば今後も継続的に活動を続けてほしいものだ。

2016年2月


非営利セクターのアクションキーワードは? -助成財団センター設立30周年記念「助成財団の集い」より-

田中 皓((公財)助成財団センター 専務理事)

2月10日に助成財団センター主催で設立30周年記念「助成財団の集い」が開催されました。
テーマは「助成財団の新たなチャレンジ―激変する環境への対応とその動向-」。

公益法人制度改革の施行から7年が経過し、政府でも企業でもない民間非営利組織の一つとしての助成財団が、<助成>という行為を通して持続可能な社会の実現に向け、いかに積極的に寄与することが可能か。
助成財団を取り巻く社会・経済環境の急激な変化の中で、社会的存在意義を自ら示すにはいま何が必要なのかを具体的事例からヒントを模索する狙いをもって開催されました。

山岡理事長の基調講演では、助成財団資料センター設立の構想が、1983年頃からトヨタ財団や助成財団有志により検討され、公益法人協会の協力も得ながら1985年11月20日に29助成財団を発起人として設立されたことにはじまり、その後1988年に助成財団界および経団連の協力のもと企業や業界団体から5億円の寄付を集め財団法人化を実現したという設立時の経緯に触れ、幾多の苦難の道を歩みつつも今日を迎えられたのは、会員財団や多くの関係者の絶大なるご支援、ご協力の賜物と謝意が伝えられました。
また、今後の助成財団に求められる力として、「資金を開拓する力(ファンドレーザー)」「資金管理する力(ファンドマネージャー)」「資金を活用する力(プログラムオフィサー)」、およびそれらを包括した「社会を巻き込む力(ネットワーカー)」が重要であり、中でも「社会を巻き込む力(ネットワーカー)」の強化の必要性を強く訴えられました。

第2部では、環境変化にチャレンジする具体的な取組み事例が4つの財団から報告されました。

1.変化の対応に小回りのききにくい大型財団の(公財)住友財団からは、助成事業に関する現場ニーズの常時把握とプログラムへのきめ細かい反映、非公募助成の活用による事業の多様化についての報告

2.変化の対応に広報重視の観点から(公財)サントリー文化財団は、「財団」は「人団」であるとの認識から「財団」と財団を取り巻く「研究者(大学・研究機関・NPO 等)」と「ジャーナリズム」の全ての関係人(者)との数珠つながりの連鎖を強化して助成活動の包括的ネットワークを作ることが変化対応の広報活動に有効であるとの報告

3.札幌を拠点に主に北海道内で研究助成事業・褒賞事業を実施してきた(公財)秋山記念生命科学振興財団は、新たに「ネットワーク形成事業」を開始し、「地域をつなぐプロジェクト」「いのちをつなぐプロジェクト」助成を開始。その狙いは知らない者同士を繋げるネットワーキングを財団の重要な役割と位置付け、「研究」と「市民活動」の相互交流、「自然科学」「人文科学」「社会科学」のコラボレーション、他財団との連携等が変化への対応に重要との報告

4.300万円の資産で財団が設立できる新公益法人制度を活用し市民が作った財団としての(公財)京都地域創造基金、持続可能な地域社会を創造することを目指し地域の社会資源、資金を地域に循環させる仕組みを構築。このような地域財団は現在全国各地に60団体ほど設立されて注目されているが、変化対応として従来型の助成財団とのプログラム連携等の可能性は今後の課題と報告。

基調講演と4つの報告、質疑を通して全員の発言から浮かび上がったキーワードは、「社会を巻き込む」「連携」「繋ぐ・広げる」「場の提供」「ネットワーキング」「コラボレーション」「提起」でした。
変化対応に今望まれるのは政府セクター、企業セクター、民間非営利セクターなど、あらゆる組織がもろもろの社会課題を自らの問題として受けとめ、連携して解決に向けて取り組むことだと言われていますが、助成財団の役割として従来から取り組んできている財団ごとの個々の助成事業の推進に加え、助成財団自らが接着剤機能を発揮して事業面・運営面での提携・連携、協働を提起し、必要なセクター・ステークホルダーを巻き込むネットワーキングの中心的存在として、持てるポテンシャルを発揮することの重要さが浮き彫りとなりました。

1月29日のマイナス金利導入後は、株安、円高が急激に進展するなど今後の見通しはますます不透明となり、取り巻く環境は厳しさを増す局面を迎えていますが、そのような環境下にあっても浮き彫りにされたキーワードは、助成財団をはじめとする非営利セクターが社会的存在価値をさらに高めて行くためのヒントを得る一助となるものではないでしょうか。
一方、そのための公益法人制度はもっと自由な「自主」と「自律」と「自立」を認めた制度であるべきとの強い要望も出され、これは欠かせぬ重要課題・キーワードとして受け止めています。

タイトル一覧