2016年5月


NPOの信頼性と力量向上を目指し

太田達男((公財)公益法人協会 理事長)

全国の非営利組織(NPO)を対象とする我が国初の評価機関、一般財団法人「非営利組織評価センター」(JCNE)が、4月1日に誕生しました。

高齢者ケア、子育て環境、貧困格差などを始め、文化芸術の継承・振興、国際的NGO活動、難病や障害に苦しむ方々の支援等々、様々な社会的課題に取り組んでいるNPO活動に対する期待は益々高まってきています。
これらのNPOには1万弱の公益法人、5万を超える特定非営利活動法人、2万近くの社会福祉法人などが典型的ですが、平成20年の公益法人制度大改革によって、登記だけで設立でき、認可・監督官庁もない、それこそ究極の自由が保証された一般法人制度により新しく設立された一般社団・財団法人も、既に3万近くと推定されています。その他旧公益法人や旧中間法人から移行した一般法人も1万5,000ぐらいあります。

これら10万を超えるNPOの中には、公益活動とはとても言えないような事業を実施しているところもあり、また、その運営がきわめて杜撰な組織もあり、いわば玉石混淆であることは、識者の指摘するとおりと思います。

JCNEは、NPOを寄附やボランティアにより支援する一般市民をはじめとして、その事業の利用者(受益者)、助成財団、事業委託等の契約の相手方(企業・行政など)、そして研究機関など広範囲なステークホルダーに活用してもらうことを想定して、NPOの組織情報を一定の基準により評価し、これらの方々に参考情報として提供することを事業目的としています。

しかし、評価事業はあくまでも手段であり、JCNEの描くビジョンは、この手段を通じてNPOの力量を質量ともに高め、社会的な信頼性を高めていくところにあり、それにより多くのNPOが、行政や市場経済では担えない分野の社会的課題の解決に重要な役割を果たすというゴールを目指しています。

公益法人協会は、欧米ではNPO評価機関があり、NPO活動の発展に大きく貢献している現状を知り、我が国でもこれを導入すべく2003年に研究会を組織し、その提言となる報告書も公表したところではありますが、時期未だ熟せず実現には至らなかった経緯があります。

今回、多くのNPO 支援組織の賛同を得、また公益財団法人「日本財団」の全面的バックアップを受けて、JCNEが設立されたものです。
このような経緯もあり、大変微力ではありますが、私が初代の代表理事を兼務させていただくこととなりました。

創設されたばかりのJCNEは、当面試行錯誤的に運営されていくものとは思いますが、先に述べたような理想を大きく掲げて、成長していきたいと考えています。
どうか、このJCNEにも、公益法人協会同様、関係各位のご指導ご鞭撻をいただきたくお願い申し上げます。

 *事業紹介のWEBサイトは、http://jcne.or.jp/

2016年4月


再考・評議員会

片山 正夫(公益財団法人「セゾン文化財団」常務理事)

3月決算の公益財団法人にとって、新年度に入った今ごろは何かと慌ただしい時期である。
決算作業に続いて、5~6月の理事会・評議員会に向けての準備が本格化するからだ。

人手の少ない多くの法人にとっては、ボードを2つも運営していく負担は決して小さなものではない。もちろん負担であっても法律で決まっているとあればやらざるをえないわけだが、問題は、評議員会の存在が法人の適正運営に役立っていると感じている現場の実務担当者が、一体どれだけいるのかということだ。

評議員会が意思決定機関として重要事項を決議し、理事会の業務執行を監督する今の制度は、主務官庁制の廃止に伴う自律的なガバナンス強化への要請から導入されたものである。同時に、一般企業におけるガバナンス重視の潮流を受けたものでもある。

だがそもそも公益法人におけるガバナンスとは何を目指しているのだろうか? 不正を見抜き、不祥事が起こらないよう防止することだろうか? 

もしそうした機能を重視するのなら、評議員会の設置効果は少々疑わしい。じっさい企業で起こっていることをみれば明らかであろう。先の東芝不正会計事件でも、衝撃的だったのは、東芝が日本を代表する名門企業であったからだけではなく、同社がほとんど最初の委員会設置会社であったからだ。ガバナンスにはとりわけ熱心な会社だったのである。

一般論として言えば、非常勤の社外取締役に、周到に仕組まれた執行の不正を見抜くことなどほとんど不可能に近いだろう。むろんそのことは、企業経営者の側も内心では解っているはずだ。いわばアリバイ作りのために、コーポレートガバナンス・コードに従ってみせているというのが本当のところではないか。

もうひとつ、公益法人のガバナンスに期待されるのは、執行が正しい(すなわちミッション達成に向かう)方向に向いているか否かを監督し、向いているのならこれを支援し、向いていないのならこれを正すということであろう。これは非常に重要なところだ。けれども、評議員会を設置しなければこれができない、あるいは評議員会があることで初めてこれが可能になると、なぜ言えるのだろうか?

公益財団はすべて理事会が必置となっている。そこには通常、「業務を執行する理事」と、「業務を執行しない理事」がメンバーとして存在している。そしてそのどちらもが、理事会において業務執行に関する決定をおこなうことになっている。ところが実際には業務を執行しているのは、いわゆる「事務局」であり、少なくとも日常業務においては、執行の決定は「事務局」の代表者(肩書きはさまざまである)によっておこなわれている。

そうであるなら、実態どおり、「事務局」代表者のみを代表理事=業務執行理事として執行責任と権限をそこに集中させ、理事会は代表理事以外すべて外部の理事によって構成すればよいのではないだろうか(多くの場合、現状はすでにこれに近いだろう)。そして法人の方向性や経営における重要事項の決定と、代表理事の業務執行にかかる評価をその場できちんおこなうようにすれば、このうえ評議員会という機関は必要ないはずだ。

もともと財団の評議員会は、社団法人における社員総会と違って、その正統性(legitimacy)自体が大いに疑わしいものだ。「出捐者の意思を体する」機関だともいわれるが、もとをただせば「中立の立場にある者」が参加する委員会によって選定されたメンバーに、「出捐者の意思」が憑依するというのは、やはりストーリーとして少々苦しいと言わざるを得ない。

実務担当者に聞いてみればわかるが、外部の理事は、実質的には評議員と何ら違いのない存在なのだ。そうであれば、「いや制度上は全然違う存在だ」と強弁するよりも、かれらに執行の支援と監督を委ねればそれでよいではないか。かれらにその役割が果たせないのなら、評議員にも同じ理由で果たせないであろう。

「機関を重装備にしさえすればガバナンスが機能する」という信仰は、実務を担う人々に無用の負担をかけることになりかねない。この負担も社会的にみれば立派なコストなのだが、数字として目に見えず、それと認識されないのが何とも厄介である。

2016年3月


あの日から5年

太田達男((公財)公益法人協会 理事長)

今年もあの日から5年を迎えた。
復興庁の発表資料等だけを見ると、避難者数はピークの47万人から18.2万人に減少、2016年1月末で高台移転は30%、災害公営住宅は47%が完成、農水産業は元の80%前後まで再開可能などの数字が並ぶ。

しかし、この数字を見て被災地の復興は7~8割まで進んでいると思う人は誰もいないだろう。
現実に高台や内陸部に居を構えた人は、僅か1割にも満たない。浸水域の利用に至ってはほとんど手付かず、仮設住宅(みなし仮設住宅をふくむ)での不自由な暮らしを強いられる方たちは、今も約14万人にもなるという。そもそも、地域によって復興の格差は大きく異なる。

放射能被害が重なった福島の避難指示解除準備区域でも、帰宅する意向を示した人は、例えば葛尾村では僅か6%程度という。生まれ育ち、生活の生業を続けてきた故郷が失われ、戻って来ても高齢者が中心で、若い世代は新たな生活を新たな場所で再建し、それが定着しつつあるというのが現状であろう。南三陸町では人口の3分の1が、65歳以上(全国平均では4分の1)という超高齢化先端地域となっている。

単に、元のコミュニティを再建することは、現実問題として不可能とすれば、単に元に戻す復興ではなく、新しいコミュニティを創造するという視点が重要だろう。その意味で、住民の合意形成が基本になるべきは当然であるが、これを助言する外部の専門家集団による新しい発想も必要となろう。
そして、これらのマクロ的な課題と同時に、地域や個人個人の事情から生ずる復興格差も忘れてはならない。災害の恐ろしい記憶、家族との別離、将来の不安など、心の痛みは千差万別だ。

公益法人の専門的知識、資金、そして何よりも利他主義を旨とするその使命こそ、今も3.11復興支援に向けて、政府や企業ができない部分を埋めていくことができる組織と思う。

公法協が毎年実施しているアンケートによれば、(移行期間中であることや、対象母数に差異があることから一概にはいえないが)2012年度では公益法人・一般法人の26%が何らかの支援事業を実施していたが、2015年度では13.4%に減少している。
公益法人・一般法人や特定非営利活動法人など非営利組織は、資金的にも職員数も少なく、できることは限られてはいるが、その規模に応じた支援対象は必ず存在する筈だ。その中で自分ができる何か一つをだけでも選んで、できれば今後も継続的に活動を続けてほしいものだ。

2016年2月


非営利セクターのアクションキーワードは? -助成財団センター設立30周年記念「助成財団の集い」より-

田中 皓((公財)助成財団センター 専務理事)

2月10日に助成財団センター主催で設立30周年記念「助成財団の集い」が開催されました。
テーマは「助成財団の新たなチャレンジ―激変する環境への対応とその動向-」。

公益法人制度改革の施行から7年が経過し、政府でも企業でもない民間非営利組織の一つとしての助成財団が、<助成>という行為を通して持続可能な社会の実現に向け、いかに積極的に寄与することが可能か。
助成財団を取り巻く社会・経済環境の急激な変化の中で、社会的存在意義を自ら示すにはいま何が必要なのかを具体的事例からヒントを模索する狙いをもって開催されました。

山岡理事長の基調講演では、助成財団資料センター設立の構想が、1983年頃からトヨタ財団や助成財団有志により検討され、公益法人協会の協力も得ながら1985年11月20日に29助成財団を発起人として設立されたことにはじまり、その後1988年に助成財団界および経団連の協力のもと企業や業界団体から5億円の寄付を集め財団法人化を実現したという設立時の経緯に触れ、幾多の苦難の道を歩みつつも今日を迎えられたのは、会員財団や多くの関係者の絶大なるご支援、ご協力の賜物と謝意が伝えられました。
また、今後の助成財団に求められる力として、「資金を開拓する力(ファンドレーザー)」「資金管理する力(ファンドマネージャー)」「資金を活用する力(プログラムオフィサー)」、およびそれらを包括した「社会を巻き込む力(ネットワーカー)」が重要であり、中でも「社会を巻き込む力(ネットワーカー)」の強化の必要性を強く訴えられました。

第2部では、環境変化にチャレンジする具体的な取組み事例が4つの財団から報告されました。

1.変化の対応に小回りのききにくい大型財団の(公財)住友財団からは、助成事業に関する現場ニーズの常時把握とプログラムへのきめ細かい反映、非公募助成の活用による事業の多様化についての報告

2.変化の対応に広報重視の観点から(公財)サントリー文化財団は、「財団」は「人団」であるとの認識から「財団」と財団を取り巻く「研究者(大学・研究機関・NPO 等)」と「ジャーナリズム」の全ての関係人(者)との数珠つながりの連鎖を強化して助成活動の包括的ネットワークを作ることが変化対応の広報活動に有効であるとの報告

3.札幌を拠点に主に北海道内で研究助成事業・褒賞事業を実施してきた(公財)秋山記念生命科学振興財団は、新たに「ネットワーク形成事業」を開始し、「地域をつなぐプロジェクト」「いのちをつなぐプロジェクト」助成を開始。その狙いは知らない者同士を繋げるネットワーキングを財団の重要な役割と位置付け、「研究」と「市民活動」の相互交流、「自然科学」「人文科学」「社会科学」のコラボレーション、他財団との連携等が変化への対応に重要との報告

4.300万円の資産で財団が設立できる新公益法人制度を活用し市民が作った財団としての(公財)京都地域創造基金、持続可能な地域社会を創造することを目指し地域の社会資源、資金を地域に循環させる仕組みを構築。このような地域財団は現在全国各地に60団体ほど設立されて注目されているが、変化対応として従来型の助成財団とのプログラム連携等の可能性は今後の課題と報告。

基調講演と4つの報告、質疑を通して全員の発言から浮かび上がったキーワードは、「社会を巻き込む」「連携」「繋ぐ・広げる」「場の提供」「ネットワーキング」「コラボレーション」「提起」でした。
変化対応に今望まれるのは政府セクター、企業セクター、民間非営利セクターなど、あらゆる組織がもろもろの社会課題を自らの問題として受けとめ、連携して解決に向けて取り組むことだと言われていますが、助成財団の役割として従来から取り組んできている財団ごとの個々の助成事業の推進に加え、助成財団自らが接着剤機能を発揮して事業面・運営面での提携・連携、協働を提起し、必要なセクター・ステークホルダーを巻き込むネットワーキングの中心的存在として、持てるポテンシャルを発揮することの重要さが浮き彫りとなりました。

1月29日のマイナス金利導入後は、株安、円高が急激に進展するなど今後の見通しはますます不透明となり、取り巻く環境は厳しさを増す局面を迎えていますが、そのような環境下にあっても浮き彫りにされたキーワードは、助成財団をはじめとする非営利セクターが社会的存在価値をさらに高めて行くためのヒントを得る一助となるものではないでしょうか。
一方、そのための公益法人制度はもっと自由な「自主」と「自律」と「自立」を認めた制度であるべきとの強い要望も出され、これは欠かせぬ重要課題・キーワードとして受け止めています。

2016年1月


 "It's care."

太田達男((公財)公益法人協会 理事長)

あるとき、それは「黄昏時のホテルオークラのわりに小さなスィートで、残光が当たっている中」での二人の会話である。一人は、日本国際交流センター(JCIE)理事長の故山本正さん、もう一人は誰あろう故ジョーン・D・ロックフェラー3世だ。

山本さんは「フィランソロピーの根源は何ですか」と聞いた。ロックフェラーがポツリとひと言「It's care」と言った。さらに、「それはいろいろな人に対する思いやりです。じぶんだけではないということなのです」と付け加えた。

これは、筆者が非営利セクターに関係する先達と対談する企画「フィランソロピー対談 第一回」での、山本氏の発言から引用している(『公益法人』誌2000年8月号)。

“あるとき”とは何時だろうか。
ロックフェラー3世は1978年7月に逝去しているから、その前であることは間違いないが、前記対談で山本氏はJCIEが主催し、公法協も協力させていただいた74年の「米加フィランソロピーミッション」と、それに続く75年の国際シンポジウム「先進社会における財団及び民間資金援助活動の役割」を回想し、その頃「ちょうど東京においでになっているときに、私を呼んでくださいました」と語っていることから、その資料を紐解くと1974年10月23日と推定される。

フィランソロピーという用語が辞典的用語ではなく、非営利活動の本質に係る用語として日本で認識されるようになったのはいつの頃から、どのようなきっかけからであろうか。
米国在住のあるNPO研究者から、そのような質問が日本NPO学会のメーリングリストに発せられ、多くの人がそれぞれヒントを提供されたが、私は、もちろん私の知る限りではあるが、それは間違いなく故山本さんの構想がきっかけであったと信じている。

再び「対談」を引用しよう。
「私はJCIEを設立した当時(1970年、筆者注)から、フィランソロピーというものは、行政対非営利の関係での相当中心的なテーマだと思い始めていましたが、直接のきっかけは73年後半のことです」と語っている。73年後半のことというのは、JCIEが「インターナショナル・フィランソロピー・プロジェクト」を始めたときである。
それが、その後前述の米加フィロンソロピーミッション、「先進諸国における財団及び民間資金援助」
シンポジウム、さらにはジョーン・D・ロックフェラー3世が提唱し、米国フィランソロピーの現状やその重要性と税制(1969年のレーガン税制)の問題点などを研究調査したファイラーコミッション報告書に関するシンポジウム(76年)と、立て続けにフィランソロピームードが盛り上がった時期であった。

それにしても、フィランソロピーの根源は「It's care」と喝破したのが、米国のフィランソロピストといえば誰もが思い出す、当のロックフェラーだけに何と含蓄もあり、美しい響きの言葉だろう!
少子高齢化、格差拡大など社会的課題がますます大きくなる日本社会において、この言葉はますます輝きを増すであろう。

2015年12月


2つの「マハーバーラタより」を観て

市民社会創造ファンド運営委員長 山岡 義典  (公益法人協会理事)

この11月末から12月初めにかけて、「マハーバーラタより」をサブテーマに掲げる2つの舞台を見た。一つはピーター・ブルック脚本・演出の「Battlefield」、もう一つは小池博史演出・脚本・振付・構成という「幻祭前夜」だ。

ピーター・ブルックはパリを拠点に活躍するイギリスの演出家で、すでに90歳を超えたという。30年前に9時間に及ぶ3部作「マハーバーラタ」を発表して世界の注目を集め、2年後には日本でも今はなき銀座セゾン劇場で公演し、私は時間の都合で2部の6時間までを観劇した思い出がある。28年を経てその作品がどう再構成されるのか楽しみに、新国立劇場に妻と一緒に観にいった。抑制した動きで朗読劇に近い70分の作品で、国際色豊かな5人が出演。簡素で引き締まった舞台構成や素朴な衣装は前作のイメージと連続する。音楽・演奏は28年前の奏者でもあった土取利行。おぼろげながら記憶に通じるものがある。

小池博史は、そのプロフィールによると演出家・作家・振付家・舞台美術家・写真家という多彩なアーティストで、「小池博史ブリッジプロジェクト」を主宰。2013年から8年かけて、日本を含む11の都市で汎アジア「マハーバーラタ」計画を推進中だ。今回はその3年目で、バンコク・上海・マニラを経ての東京公演。吉祥寺シアターに一人で観にいった。アジア各地の伝統音楽とダンスを取り入れた、激しい動きの舞踏劇で、タイとマレーシアからの参加を含めた9人の踊り手が、衣装や仮面を取り換えながら28の役を演じる。それらの仮面はバリの伝統仮面作家に作成を依頼したと、アフタートークで知った。

「マハーバーラタ」は古代インドの超長編叙事詩で、ヒンドゥー教の伝わった南~東南アジアにかけての民族文化の基層に存在し続けた。この叙事詩から全く異質の発想と手法をもつ2つの国境を越えた現代的な表現が生まれた。このような創造活動はチケット収入で成り立つものではない。国や自治体の果たす役割も大きいが、企業のメセナ活動や公益法人などの支援も欠かせない。「幻祭前夜」では市立の劇場を運営する外郭団体の公益財団法人武蔵野文化事業団が提携し、公益財団法人セゾン文化財団も協力した。企業寄付に結び付ける上では公益社団法人メセナ協議会の認定も重要な役割を果たしただろう。

そして思うのは、これらの世界の文化を多様化し豊かにするような非営利の複合的な役割を、投資に対するソーシャル・リターンといった発想で測れるものなのかどうか、測ってもよいものかということだ。リターンは、100年後でもよいのではないだろうか。

2015年11月


資産の社会還元と公益信託

太田達男((公財)公益法人協会 理事長)

昨年10月のこのコラムで、私は「公益信託に再びスポットライトを」なる一文を掲げ、1922年制定以来実質的な改正がないまま、主務官庁許可・監督制度がそのまま残っている公益信託制度を、主務官庁制度の撤廃と法人自治の尊重により、民間の自発的な公益活動を支援し奨励する制度に生まれ変わった公益法人制度改革にならい、早期に抜本改正する必要性を訴えたところです。
(参考1:http://www.kohokyo.or.jp/kohokyo-weblog/column/2014/10/

幸い、法務省は今年4月より研究者、関係省庁担当官および実務家などから成る「公益信託法改正研究会」を設け、すでに8回にわたり検討を続けており、それを踏まえた「報告書(案)」が、公益社団法人「商事法務研究会」のホームページに掲載されています。
もちろんこれは「案」であり、年末までさらなる議論が継続されるものではあるが、一応改正の方向が大筋見えてくるものであり、是非ご一読いただきたい資料です。
(参考2:http://www.shojihomu.or.jp/p_trust/20151105-12.pdf

細部は措くとして、主要な論点は、①行政庁関与の在り方、②受託者の担い手、③事業の範囲、④機関設計です。

まず、①は公益信託の設定とその後の監督に関し、どの行政庁がどのように関与するのかという論点であり、②の論点は、現在公益信託の受託者足り得る者が、事実上信託業法等の免許・認可を受けている信託銀行・信託会社等に限られているのを、その他の一定の条件を備える法人に範囲を拡大するかどうか、③は現在事実上、資金交付型(助成金・奨学金給付など)に限定されている公益信託の事業を拡大し、自らが行う事業活動(公益法人でいえば公益認定法別表に掲げる各種の公益目的事業)を認めるかどうか、④は公益信託のガバナンスとして、どのような機関を設け、夫々にどのような権限・義務を賦与するかです。

公益法人協会は、公益法人や特定非営利活動法人同様、公益信託は民間公益活動の一つの組織であり、特に今後、個人資産が「公益の領域」に益々活用される有力な「導管」となることを願い、その観点から上記の①~④について、研究会の場においても意見を述べてきています。

公益法人制度改革の時もそうでしたが、今回も財務省は研究会には直接参加せず、改革案を見てその税制を考慮するという立場ですが、公益法人協会は来るべき新公益信託には、公益法人同様の税制上の支援をしていただきたいと考えています。

折から政府税制調査会では、資産課税に関し、閣議決定「経済財政運営と改革の基本方針2015」(本年6月30日)にある「(前略)老後扶養の社会化が相当程度進展している実態の中で“遺産の社会還元”といった観点が重要となっていること等を踏まえた見直しを行う」としており(“ ”は、筆者)、私は、公益信託こそまさに「遺産の社会還元」の最有力な制度であることを認めていただきたいと考えている次第です。

また、公益信託そのものには必ずしもなじまなくても、信託という制度自体は、人の願いや希望を託する最良の制度ですから制度を使った多くの社会還元のための制度設計も可能であり、これらも含めて提案させていただきたいと考えています。

今後は、年末までには最終報告書が発表され、その後法制審議会を経て、国会提出というような段取りになると思いますが、公益法人協会では、公益法人の方々を初め非営利セクターの方々のご意見を頂きつつ、引き続き取り組んでいく所存です。

2015年10月


「やめること」の難しさと大切さ

片山 正夫(公益財団法人「セゾン文化財団」常務理事)

一般に、公益活動を行う主体は「やめること」が大の苦手である。

なぜなら、公益活動というものは、どんな活動にも少しくらいの効用はあるからだ。
まったく何の“成果”もないということはありえない。そのため、“成果”がある以上やめる理由はない、
となってしまうのだ。結果、いったん始まった事業はいつまでも延々と続くことになり、事業ポートフォリオの入れ替わりが起こらない。

これが一般企業だと、そうはいかない。マーケットが、「少しでも売上・利益があるのだから残せばよいではないか」という温情的判断を許してくれないからだ。
競合に打ち勝つためには、つねに“よりよい”パフォーマンスを目指さなければならない。
必然的に、事業ポートフォリオの組み替えも行われることとなる。経営者にとって、事業の入れ替えは、もっとも重要な仕事の一つだとさえいえるだろう。

経営という視点からみると、こうしたマーケットからの圧力のあるなしこそが、営利活動と非営利活動を分かつ決定的な違いである。つねにより高い“成果”に向かって行動することを当然とする組織を、マーケットの"助力"なしでどう作るかが、公益団体の経営者の大きな課題なのである。

仮に公益団体やその経営者を、「優」「良」「可」で格付けするとすれば、まじめに仕事をしてはいるが、ずっと同じ事業を十年一日のやり方で続けているところは、まあ「可」であろう。
一方、時代のニーズをとらえて新しい事業に取り組み、既存事業も不断に改善を試みているところは「良」である。これなら「優」ではないかと思われそうだが、まだ十分ではない。
このような団体では、往々にして事業の数ばかり増えていき、その結果、経営資源がいたずらに分散してしまう可能性が高い。つまり、全体のパフォーマンスは低下しやすいのである。
厄介なことに、その低下は目に見えないので、これに気付くことは、理事会にはもちろん、経営者にとってさえ非常に難しい。

これに対し、「成果」はそこそこあるものの、それがミッション達成に至る他のオプションと比較して相対的に小さい事業や、当該団体として取り組む意義の薄れた事業を、思い切って棄てていけているところは間違いなく「優」である。 ただこれは難易度がかなり高い。
その事業で恩恵を受けている受益者もいれば、思い入れをもって事業を担当してきたスタッフもいるからだ。恣意的に(あるいはそう見えるやり方で)突然事業を中断してしまうと、相当のネガティブインパクトが生じることを覚悟しなければならない。

ではどうするか? 可能な限り客観的な事業評価をとり入れ、改廃の判断材料としていくことしか、おそらく納得性をともなった解決方法はないように思われる。

事業評価というと、ふつうは、活動を改善したり、成果を説明したりするために行うものと思われがちだ。だが評価は、「何かをやめる」ためにも力を発揮する。
とはいえ、ただ事業ごとに、結果がどうで成果がどうであったかを記述する式の、よく見られるような評価フォーマットだけでは不十分である。先に述べた通り、どの事業にも何らかの「成果」はあるのだから、これでは何も「やめること」ができないからだ。

ではどうするのか? この先を考えるのが公益団体の経営者の仕事である。

2015年9月


公益法人になって後悔! ―公益法人になって後悔している法人の割合が5%―

太田達男((公財)公益法人協会 理事長)

これは、毎年公法協が6月から7月にかけて実施しているアンケートの結果だ。
2015年度は、公益法人になってよかったが66.7%(昨年度65.2%)、後悔しているが86法人で5.4%(昨年度108法人、5.1%)、どちらともいえないが27.9%(昨年度29.7%)という結果が出た。
一般法人ではどうか、後悔していると答えた法人、1.1%(昨年度1.2%)。

もう一つ。 
今、自由に法人選択ができるとしたら、やはり公益法人を選ぶが82.8%、一般法人を選ぶが14.3%、特定非営利活動法人などその他の法人類型が2.9%だ。
これらの傾向値を少ないと見るか多いと見るか、それぞれの感想は異なるのかもしれないが、私は折角苦労して公益認定を取得したのに、後悔している法人が5%も!
できれば一般法人にというのが14%もあるのか! という印象の方が強い。

それでは、なぜ少数ではあっても後悔したり、やり直しがきくなら一般法人と考えるのか。
これは次の回答を見てみると明らかだ。
運営上困っていることがあると答えた公益法人は55.8%(昨年度56.7%)、他方、一般法人で運営上困っている法人は20.6%(昨年度25.5%)。
さらに、公益法人に困っている理由を聞くと、収支相償がダントツのトップ(556件、複数選択数以下同じ)、次いで定期提出書類作成(344件)、決算事務(210件)がご三家という結果が出ている。
第4位につけているのが、変更認定申請・届(189件)というところだ。

公益法人制度は、民間の自発的な公益活動が国にとって重要、これを奨励し、国としてもこれを支援するという理念・原点の下に改革された筈だが、過剰な規制や過重な事務負担を強いる結果、逆に民間公益活動が窮屈で複雑怪奇な手続きのために、委縮現象を来しているのではないかと憂慮するものである。

さらに、これらの現象が一種の風評被害のように広まり、一般市民が新しい公益法人の設立を躊躇する現象が広がることも心配している。
新設の一般法人はすでに2万件を超えて、中には被災地の支援はじめ地域や専門の分野で立派な公益活動をしている法人も多いが、公益法人は自由度がなく認定申請は考えないという声をよく聞く。

移行法人ではない新設の公益法人は、制度開始以来7年も経ったというのに僅か439法人(うち都道府県207法人)。
急速に進展する少子高齢化や、貧困問題など様々な社会的課題に取り組む、小さくてもキラリと光る市民の活動がどんどん公益法人として誕生することが、社会から期待されていると思う。

2015年8月


民間公益活動の活性化に新制度の更なる柔軟解釈・運用を!!

田中 皓((公財)助成財団センター 専務理事)

暑中お見舞い申し上げます。
今年の「猛暑」もここ数日はピークを越えた感がしますが、この猛暑の中、激闘の甲子園は100年の節目を迎え、また今年は終戦から70年の節目、安倍総理の70年談話が注目され、集団的自衛権と憲法解釈でゆれる安全保障関連法案が国会論争の真っただ中、また2度と起きてはならない『日航ジャンボ機墜落事故』から30年の節目を迎えた夏、様々な節目の年として改めて「平和と安全」を真剣に考えさせられる盛夏を迎えています。

節目といえば、110年ぶりの民法改正による抜本的公益法人制度改革は、施行後7年目を迎え、今年1月の太田理事長のコラム「前途多難な新公益法人制度」が思い起こされます。

一昨年8月からは公益認定等委員会内で「公益法人の会計に関する研究会」がスタートし、会計上の課題(法制上の課題も含む)を中心に新制度の下での初の見直しが行われ、2014年4月には「中間とりまとめ」を、2015年3月にはその報告書が公表され、合わせてFAQ(よくあるご質問)が整備されたのはご高承のとおりです。

研究会の検討課題の1つとして掲げられた「小規模法人の負担軽減策」については、「小規模法人を定義することは難しいとの結論を得た」として「規模の大小にかかわらず公益法人として原則的な処理が必要である」と結論付けています。
この度の制度改革では、約2万法人が新制度に移行しましたが、その中で助成事業を行っている法人は当センターの集計では約3,000法人と推測され、その中で資産規模が把握できる1,800法人においては、資産総額5億円未満の法人が約45%を占め、年間助成金額が把握できる約1,600法人においては、年間助成金額1,000万円未満の法人が約50%を占めています。
これらの法人のほとんどが数名の職員で運営されている実態を考慮しますと、公益事業にさらに多くの力と時間を注ぐための「小規模法人の負担軽減策」は、今一度検討を要する課題と考えます。

また、報告書で示された内容をフォローする「FAQ」では、問5.公益認定基準(財務・会計に関するもの) 具体的項目では、・収支相償 ・公益目的事業比率 ・遊休財産額 ・役員に対する報酬等 ・法人会計の黒字他、問6.移行後の公益社団法人・公益財団法人の運営 具体的項目では、・公益目的事業財産 ・区分経理 ・作成すべき書類等他、問11.変更認定・認可・届出手続に関するもの、を中心に大幅な追加・改正・廃止が行われています。

特に関心の高い「収支相償」に関するFAQ問5-2-③~⑦や、助成財団の変更認可等に関する問11-1-①には目を通されることをお勧めします。特に問5-2-⑤の修正に加え、新設追加の⑥「剰余金の解消期間」、⑦「剰余金による公益目的保有財産としての金融資産の取得」は、これまで要望し全面否定されてきた金融資産の取得に関して、条件付きながら認めるFAQとして一歩前進と評価されます。

しかしながら、問5-2-⑦の条件の前提となっている「事業拡大のための金融財産保有」は「事業維持のための保有」も認める柔軟性が、また、社会ニーズをとらえた助成事業への転換を検討する助成財団にとっては、内部留保が必須であることから更なる柔軟化が必要となりますし、その際の変更認定の諸手続きへの行政庁の柔軟対応も欠かせません。
また、指定正味財産を判断する考え方等まだまだ柔軟な運用や解釈を必要とする課題は多くあります。

加えて、収益源が金融収益に限定され公益目的事業しか行っていないような法人に対する法制度や会計基準の適用は、各法人が公益活動を活発化しやすいように実態に合わせ、その他の法人と区分した解釈や運用を検討し適用していってもよいのではないでしょうか。

2015年度も会計研究会が再開され、繰越課題を中心に議論されると伺っていますが、研究会メンバーの構成見直しや議事録の公開等を含め、民間公益事業の進捗を後押しするような法制度や会計基準の柔軟な解釈、運用をぜひ実現してもらいたいと切望するものです。
そのためには法人運営の実務面からの声をさらに集約して提言することが重要となりますので、引き続き皆さまのご支援をよろしくお願い申し上げます。

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