タンザニア派遣医師・弓野綾から、支援者の皆様へ

ダマスさんは25歳です。6人きょうだいの2番目として、タンザニア・タボラ州の州都タボラの中心部から170kmほど離れた村に生まれました。生活は貧しく、お姉さんは小学校しか卒業できませんでした。ダマスさんは、近所の農家の手伝いなどをして学費の一部を稼ぎながら、公立の中学校をなんとか卒業しました。彼の生まれた村には医師はおらず、看護師が1人いるだけでした。そのため、村のお母さんたちがお産に関わる病気で苦しんだり、小さな子どもが病気で亡くなったりすることが多くみられました。ダマスさんは、このような人たちを助けるために、看護・助産師になりたいという希望を持っていました。タンザニアでは男性も助産師として働くことができます。しかしダマスさんには進学するお金がなく、中学卒業後は村で働きながら教会の活動を手伝っていました。

5年ほど前のある日、タボラ大司教区保健事務所のアレックス神父と出会い、その真面目な人柄をかわれて、同保健事務所の傘下にある聖アンナ・ミッション病院の清掃員として働くことになりました。病院では時間と約束を守る誠実な働きぶりが評価され、ダマスさんのかねてからの希望を知ったタボラ大司教区と病院がJOCSの奨学生に推薦してくれました。奨学金の合格通知が来たときは、看護・助産の勉強ができる道が開けたと、とてもうれしかったそうです。2年間の看護学校では特に助産に関する講義と実習が興味深く、自分の故郷の村で苦しんでいたような母親と子どもたちの助けになりたいと勉強に励み、優秀な成績で卒業しました。

卒業後は、私の活動している聖アンナ・ミッション病院の母子病棟と救急外来で、准看護・助産師として働き始め、現在は全体の監督責任者の一人として活躍しています。

ある日、救急外来をジョハリさん(仮名)という10代後半の女性が下腹部の痛みで受診しました。ダマスさんは彼女を見て、「血圧がやや低く、脈が早く熱があり、さらに結膜が青白く貧血が疑われる」ことを重視し、一緒に外来を担当していた私にすぐ報告してくれました。彼女は妊婦健診には通っていなかったので経過はわかりませんが、子宮は固く、みぞおち近くまで大きくふくらんでいて、もう臨月で陣痛が来ているのかと疑われました。マラリアと尿路感染症にもかかっているとわかり、さらにHIVにも感染していました。

さあ大変、お産の対応のほか、貧血と他の病気の治療、赤ちゃんにHIVを感染させない方法を考えなければなりません。

もしも日本であれば、HIVを赤ちゃんに感染させないために帝王切開の手術をしたり、産後は赤ちゃんに母乳でなくミルクをあげたりという対策ができます。しかしタンザニアではいつでも手術が安全にできるわけではありません。また赤ちゃんに十分な栄養を与えるためのミルクや安全な水を毎回用意できる家庭は少ないので、感染症が多い途上国では抵抗力成分をたくさん含んでいる母乳哺育が勧められています。

幸いなことに、ジョハリさんはまだ陣痛に到っておらず、診察の結果、赤ちゃんは十分育って元気であり、子宮からの大きな出血や破水もみられないことがわかりました。陣痛が始まる前に輸血などの治療を始め、その後母子病棟で、ダマスさんをはじめ助産師たちが、専門のスタッフとも相談しながらジョハリさんのHIVの治療を開始しました。そして、お産やその後に大きな出血がないよう、産道に傷ができないよう気をつけて介助し、赤ちゃんは無事に産まれました。

赤ちゃんにはHIVの感染を防ぐ薬の投与が始められました。産後、ジョハリさんはダマスさんたちから、今後自分自身と赤ちゃんが健康に暮らすために必要な通院と検査のこと、薬を飲み続けることの大切さなどについて学び、母乳を上手にあげる方法も練習しました。その後は親子で外来に通って、健診やHIV感染症の治療を続けています。

ダマスさんは「こうやって、タボラのお母さんと子どもを助けられるようになったことをうれしく思っています。病院が休みのときには生まれた村に帰って、村の看護師を手伝うこともできます。これからもっと勉強して正看護・助産師の資格をとり、他の看護師や助産師たちに知識や技術を伝えていきたいです」と話してくれました。その夢がかなうよう、そして、タボラのより良い医療のためにその支え手が増えるよう手助けしていきたいと思います。

皆様からいただくご支援によって、ダマスさんのように、地域の医療のために貢献する人材が育っています。また、彼らとともに働き、彼らが医療者として独り立ちできるよう支えるために私たち保健医療従事者が派遣されています。皆様のあたたかいご支援に心から感謝申し上げますとともに、ジョハリさんとこの赤ちゃんのようなケースを一人でも多く救うことができますように、これからもどうぞご支援ください。

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生まれた赤ちゃんを抱くダマスさん

 

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胎児の心音を聞くダマスさん

 

※JOCSは、タボラ大司教区保健事務所に医師を派遣し、診療を通して、現地スタッフへの技術移転などを行っています。

 

公益社団法人日本キリスト教海外医療協力会(JOCS)

JOCSは、アジアを始め海外諸国の保健医療事情向上のためにキリストの愛の精神に基づき保健医療協力を推進し、すべての人が支えあう「みんなで生きる」平和な社会の実現に寄与すること目指しています。

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