公法協発行の杉浦直紀・希代浩正著『一般社団・財団法人の登記実務』132ページには、
「……、理事及び代表理事が退任し、代表理事の員数が欠けた場合であっても、理事の員数を欠かないため理事の権利義務を有する者とならないときは、代表理事の権利義務を有する者とはならない」
とあります。
一方、法人法79条1項には、
「代表理事が欠けた場合又は定款で定めた代表理事の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した代表理事は、新たに選定された代表理事……が就任するまで、なお代表理事としての権利義務を有する」
とあります。
まず、一読明瞭なのは、79条は代表理事が「欠けた場合」と代表理事の「員数が欠けた場合」を列挙しているのに対して、杉浦らは「員数が欠けた場合」についてのみ解説していることです。例えば、代表理事定数2でA・B2人が在任している場合、A1人が辞表を書けば、これは「員数を欠く」(欠員1になる)ケースで、理事の定数割れにならない限り、Aは即理事・代表理事とも100%退任できるということです。次いで1人になったBが辞表を書くと、今度は「代表理事を欠く」(0になる)ケースで、これについて杉浦らは何ら言及するところが無く、Bは自由意思で代表理事を退任しますが、直ちに79条の言う「なお代表理事としての権利義務を有する」者になります。ちなみにBが「理事の権利義務を有」し続けるか否かは75条により、理事定数を割るか否かに依って決まります。……以上。
とならないのは、杉浦らは先に引用の前に(……の部分に)アプリオリに「代表理事の地位は、当該代表理事が理事の地位にあることを前提とする。したがって」と記しているからです。これが“代表理事の基礎資格は理事”と定式化され、様々な誤解が生じています。そんなこと、法人法のどこにも書いてありません。法人法は「理事の中から代表理事を選定しなければならない」(90条3項)と、選出時に理事であることを指示しているだけです。そのあとは、資格条件も任期の規定もありませんから、余計な「基礎資格」とやらを心配することなく、無期限に代表理事であり続けられるのです。2年ごとの理事改選のたびに代表理事不在の手当てを(しかも理事再選ならどうだ、不再選ならこうだと、)考える必要などまったく無いのです。仮に定評で理事落選、あるいは勇退するにしても、79条によって後任代表理事の「就任」(選定ではない)までは代表理事業務は逃れられず、かくして代表理事機能は途切れなく継続するのです。
では、法人法で支障が生じないはずの理事改選直後の手続きが、なぜ紛糾するのでしょう。その原因は公法協の定款32条2項、
「理事のうち、2名以内を代表理事とし、……」
に窺うことができます。この中の「のうち」が効いてくるのです。「~のうち(内)」と規定していると、代表理事は理事に含まれ、当然に理事でなくなると代表理事ではいられないことになります。公法協がなぜこういう後に面倒を生じる定款条文を書いてしまったか、その一因は内閣府のモデル定款が19条2項で「理事のうち1 名(○名)を代表理事とする」と例示していることにありそうです。公法協さえ、これをコピペしたとすれば、全国右へ倣えでしょう。こうして、本来理事から選び「出す」はずの代表理事が理事の「うち(内)」にとどめられてしまい、代表理事は理事であり続けなくてはならない、代表理事は理事を基礎資格とする、といった誤った「正解」が定着してしまったのです。
すでに触れましたが、首相は国会議員の中から選び、無任期です。ですから、先日の解散で本人も「基礎資格」を喪失したはずの安倍が、その後も途切れなく首相の肩書を使っていました。それでいいのです。明日24日に、定評直後の理事会に相当する総選挙直後の国会で現安倍首相が新安倍首相に日本法人の代表権を一瞬の途切れもなく、引き継ぐのです。
今後、内閣法制が「首相は国会議員から選ぶ」でなく「国会議員のうち1名を首相とする」と改正されると、解散の都度、公法協同様「権利義務承継首相」やら「仮首相」やらが核のボタンを握るトップに立つことになるのです。
モデル定款は罪つくりでした。たった1行で、2年に一度の厄介を将来してしまったのです。さらに、これに準じた我らの範たる公法協定款が、2名でなく「2名以内」として、「員数を欠く」事態を封じたため杉浦らの説の79条との齟齬が露見せず、全国的にその不備・誤説が定説化してしまったのです。
しかし、公法協を責められない背景は認められます。「代表知事」という呼称で、理事〔会〕の代表でなく法人代表権を付すことの不自然さです。首相を「代表国会議員」と言うようなもので、これだと解散後に「私を議員にして!」と訴えるのが奇異に感じられます。公法協の評議員会会長(定款16条)が別段説明がなくとも常識感覚で評議員会のトップと認識される(評議員長でも代表評議員でも同じ)のが自明なのに対して、代表理事が理事でありながら理事会を代表しないのは不可解です。
過ちて改むるに云々、定款を1行だけ変えて、現代表理事が理事改選定評後も本人の理事当落に関わらず、新理事会招集、議長として後任を選定、当日付で議事録作成・登録印押印、後日承諾書を持参した後任と引き継ぎ=登記原因発生日、とするのを標準形とすべきではないでしょうか。合法的に代表理事の職務と決めたこれの手続きが2年に一度必ず実行不可能になるなんて、どう考えてもおかしくはありませんか。
なお、岡部さんもそうでしたが、不分明な点は会社法の運用に依拠する、というのはダメです。法人法が文面上いかに会社法のコピペであろうと、自立した法文として定められた以上、条文自体を精読・正解しなくてはいけません。
長くなりましたが、要は79条について、何某がこう言っているではなく、条文自体にはこう書かれている、という問題提起です。先に7回の質問投稿をしましたが、それらはすべて79条が正解されれば氷解する問題だと思います。選任と選定、議事録作成日付等、些末な揚げ足取りのようにご不快であったかもしれませんが、すべて法人の代表の選継続性を担保したキー条文である79条の理解に関わることだと思います。
ご高説を賜りたく、