by 鈴木 勝治 » 2015年9月29日(火) 14:02
岩内 省さんへ
大変遅くなりましたが、8月23日付の「(続々)理事の議決権」と9月17日付の「(続々々)理事の議決権」について私の考えを述べます。
(もっとも後者については私宛のものではありませんし、断るまでもありませんが公益法人協会の公式見解でもありません。)
1.8月23日付のご質問について
法人法§95⑤に「理事会の決議に参加した理事であって…議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定する。」と
規定されているので、議決権を留保した議長は、後日不都合があったときは責任追及されるかどうかというご質問と理解しました。
これについては以下のように考えます。
(1)議事録の効力について、会社法の通説と同じ考えで、「法律関係の明確化のために作成されるものに過ぎず、したがって記載漏れ
または事実と異なる記載があった場合、それにより決議の効力等に影響があるわけではない。しかし決議に参加した理事が議事録に
異議をとどめなかった場合、決議に賛成したと指定され、不利益を受ける場合がある」(江頭憲治郎著『株式会社法 第6版』有斐閣
2015年4月刊 422頁)と思います。
(2)ただこの規定は理事会決議に賛成したことを推定するにすぎませんので、その決議を基礎に行為した理事が任務懈怠責任を負う場合
であっても、賛成取締役の任務懈怠が推定されるわけではありません。(落合誠一編『会社法コンメンタール8』商事法務2009年2月刊
308頁)したがって、議事録に議論の経過が記載され、議長が反対であることが明らかである場合や特に発言を求めて反対の意思を表明
したりしていれば、その推定を覆すことができると思います。
(3)以上から岩内さんが②でお書きになったような表現をしなくてもよいのではないかと思われます。一般的にいって議事録には
決議の結果が記載記録されますが、誰が決議に賛成し反対したかについては明示されることがありません(※)ので、むしろ議論の
経過の方が証拠能力としては意味があるように思います。
(※)前掲『会社法コンメンタール8』308頁参照。なお私が評議員を勤めている財団では、評議員会の例ですが、賛否を挙手で行い、
その数を確認していますので、賛成者と反対者は明確となっています。(もっともほとんどの場合全員賛成であり、挙手の意味は実際は
少ないようです。)
2.9月17日付のご質問について
ご質問の順番に私の考えを簡略に申し上げます。
(1)仮議長は、定款に規定する議長ではなく、正式に議長を決定する迄の司会者みたいなものであり、理事でなくても事務局が行っても
よいとされていますし、それは実務上も定着していると思います。従って定款の規定に拘らず出席した理事全員が本来持っている議決権を
行使できると考えます。
(2)公益法人協会の理事会では、上記1の(3)の(※)に書いたような挙手による賛否の確認は行っておらず、特に異議の申出がなく、
出席者の「賛成」或いは「異議なし」という声により、原案に賛成の場合は可決としていますので、特定個人の賛否は明確ではありません。
しかし代表理事の選出について、その候補者が利害関係者として議決権を留保する或いは棄権する必要は判例・学説ともないとされて
いますし、また当日出席した私はそのような事実はなかったと記憶していますので、本人が明示したか黙示であったかは別として賛成で
あったと思います。
(3)代表理事(ならびに執行理事)については、一般法§90③(ならびに同法§91①2)によりおっしゃる通り「選定」と規定されています
ので、条文の印用の際は選出ではなく「選定」とすべきかと思います。ただ、ここからは全くもっての個人見解或いは個人的好みと
なりますが、私自身は「選定」とすべき時であっても、条文の印用の場合でない限りは、「選出」と書くことに何の拘りも持っていません。
その理由は、国語的には「選出」も「選定」も全く同じであり、一般法が分けて規定する根拠ならびにその効果の差異等が私個人としては
納得できないからです。このことについては、記述すると長くなりますので、末尾に(※)記載しましたので、もしよろしければご参照
ください。
(4)事務局長の選任のところの文章の書き方については、私は事務局ではありませんので承知しておりません。
(5)登記は終了していると事務局より聞いております。
(※)「選定」と「選出」について
この問題については、「解職」と「解任」の言葉遣いを巡って、岩内さんより去る6月18日付でご意見を頂戴しています。今回は
「選定」と「選任」の問題ですが、「選定・解職」「選出・解任」とセットで考えられますので、「選定」と「選出」の問題として
議論したいと思います。
なお本件について回答が遅くなりましたが、それは色々の識者に聞いても私自身が納得できないこともあり、さらにこのような使い分け
をする根源的な根拠を探していたためです。ただ、いくら探してもその根拠となるものが見つかりませんので、本件については
多分私の能力を超えますのでこの回答で議論を打ち切りとさせて頂きます。
(1)一般法§90③については、会社法§362③と同一の規定振りですので、そこからみてまいりたいと思います。
会社法の立法担当者であった葉玉弁護士(現学習院大学教授)によれば、「選任」は、何の役職にもついていない人を選ぶとき
(例 取締役の選任)に用い、「選定」は、ある種類の役職についている人の中から選ぶとき(例 代表取締役の選定)に用いる
という使い分けをしたとのことです。http://blog.livedoor.jp/masami_hadama/archives/50066143.htmlちなみに、「選定」は
会社法では、代表取締役のほか、設立時代表取締役(47条)、設立時委員(48条)、設立時代表執行役(48条)、業務執行取締役(363条)、
監査法人等における会計参与の職務を行うべき者や会計監査人の職務を行うべき者(333条、337条)、会計監査人解任の報告をする
監査役(340条)、特別取締役(373条)、常勤監査役(390条)、委員会設置会社における委員会の委員(400条)、代表執行役(420条)、
代表精算人(489条)等で多数用いられております。解職も同じです。
これに対して、法人法では、代表理事のほか、設立時理事(21条、162条)、業務執行理事(91条、197条)、代表清算人(220条)程度
しかありません。
(2)それでは、国語としてはどうか、或いは他の法律ではどうかをみてまいります。
私自身は、国語として二つの言葉に大きな差異がないと思います(※1)。また新会社法以外ではこのような使い分けをしていないと
思います(※2)。
(※1)広辞苑や新明解国語辞典程度の中小辞典でもいろいろ書いていますが、大日本国語辞典では、選任を「選んでその任務に就かせる
こと」と、選定を「えらび定めること。多くのなかから目的にあったものをえらびとること」となっており、どちらの言葉であっても、
理事の「選任」と代表理事の「選定」の「」の言葉を同一にしても、或いはそれぞれを入れ替えても通用すると思われます。
(※2)有斐閣の「法律用語辞典第3版」によれば、次のようになっています。
「選定」→「一定の目的に合った人又は事物を選びさだめること。」となっており、憲法第15条第1項の国民の公務員選定の権利の例が
載っていますが、これは葉玉氏のいう「ある種類の役職についている人の中から選ぶとき」にあたるでしょうか。
「選任」→「一般にある人を選んで、ある地位又は任務に就かせること。選挙による場合を含んだ広い意味で用いられる。」となっており、
国会法第31条2項の議員の役員選任の例が載っていますが、これは葉玉氏のいう「何の役職にもついていない人を選ぶとき」にあたる
のでしょうか。
(3)このように会社法とそれを受けた一般法以外(勿論全法律を調べたわけではありませんが、)区別はしていないと思います。
それにも拘らずあえてそれを行うということは、何らかの実益を伴うなら格別ですが、単純な一法律の認識のために、このようなことを
するというのは、いたずらに一般の国民を惑わせるし、さらに言えば法律は難しい、その結果法律嫌いにさせる原因にもなるかと思います。
そこで以上の理由以外に何かもっと本質的な理由があるのではないかと識者にいているところでした。
(4)そのうちの一つとして一法律(会社法)だけであっても、階層のある概念(ここでは「選ぶこと」)はできる限り細かくし、
同種のものが多数あるときは、同種のものは同一の言葉を使うことが思考の整理(記憶の節約)になるとある弁護士さんから教え
られました。そして会社法もそのような考えから言葉を整理したように聞いているとおっしゃっています。(前掲(1)のように
会社法では多数の「選定」がありますが、一般法では4件のみです。)
(5)しかしそのような整理は、私のように素人で論理的・抽象的な思考の苦手なものにとっては、記憶の節約になるどころか、
思考・記憶の負担になるように思います。もしこういうことをやるならば、法律の最初にその言葉の定義を行って使い分けをすべき
であって、立法担当者がある意味では勝手に「選任」と「選定」の使い分けを行ったことに非常な違和感をもっています。
従って私自身は、法人法第91条や197条を引用するとき等は「選定」を使いますが、一般的な記述説明をするときは、上記(2)の
法律学辞典でより広い意味とされる「選任」を使ってきたし、これからもその方針でいきたいと思っています。(もっともそれが
正しい態度かどうかはよく分かりませんが。)
以上
By 鈴木 勝治