(続々々)理事の議決権

(続々々)理事の議決権

投稿記事by 岩内 省 » 2015年9月17日(木) 16:47

公法協の第31回理事会(平成27年6月24日開催)の議事録には、次のような記載があります。

第2号議案「理事長及び専務理事の選任」の件
仮議長〔太田達男〕より、理事長及び専務理事の候補者に関する議案説明があった。審議の結果、次のとおり選任を出席理事全員一致で可決した。
(理事長)太田達男
(専務理事)金沢俊弘、鈴木勝治
なお、金沢専務理事については事務局長兼任を求めたところ、全員一致で了承された。

いくつかの疑問を覚えます。以下、箇条書きします。

1.前半の役付理事選出決議について「出席理事全員一致」ということは、定款によりまず議長抜きで決議が為され「可否同数」でなければ議長の議決権行使はあり得ないので、あり得ないのではないでしょうか。それとも議長でなく仮議長は1回目から議決参加できるということでしょうか(それでも、正議長に就いた後の3号議案以下は誤りです)。あるいは、定款無視の議長投票が日常化しているのでしょうか。
2.その前に、太田さんは自らの選出案に賛成を表明したのでしょうか。社長の座をめぐって鎬を削る営利会社とは異なり、安定した公益法人の役職選出では、謙遜を装って棄権するのが通例だと思いますが……。
3.そのまた前に、役付理事の選出のことは「選任」でなく「選定」ではないでしょうか。まあ、ここは法定役職ではないのでテキトーでもいいと思いますが、1号議案の法定代表理事の選出は「選定」でなければ不可でしょう。
4.後半でサラッと事務局長人事を記していますが、この記述ではいったい誰が「選任を求めた」のか、だれが「了承」したのかわかりません。他はすべて提案者と、決めたのが「出席理事」全員であることを明記しているのに、ここだけあいまいにしてあります。何か、ワケがあるのでしょうか、理事以外の参会者も拍手したとか……。
5.最後に、これで管轄役所や登記所は通ったのでしょうか。特に登記所では人事議決の形式正当性にはうるさく、法と定款と議事録を細かくチェックするはずですが……。

最も疑念を覚えるのは、鈴木さんがあれほど苦慮して起案された定款の理事会二段階採決規定が当の理事会で骨抜きされているのではないかということです。あるいは、規定の方が、すべてはトップのリーダーシップで動く現実から乖離していることの現れでしょうか。やはり1回目議長抜き、同点なら議長専決には無理がありそうです。どうも、背景に理事会・定款双方が、委任状でうまく処理していた旧制度の気分を引き摺っているような気がしてなりません。
岩内 省
 

Re: (続々々)理事の議決権

投稿記事by 鈴木 勝治 » 2015年9月29日(火) 14:02

岩内 省さんへ

大変遅くなりましたが、8月23日付の「(続々)理事の議決権」と9月17日付の「(続々々)理事の議決権」について私の考えを述べます。
(もっとも後者については私宛のものではありませんし、断るまでもありませんが公益法人協会の公式見解でもありません。)

1.8月23日付のご質問について
法人法§95⑤に「理事会の決議に参加した理事であって…議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定する。」と
規定されているので、議決権を留保した議長は、後日不都合があったときは責任追及されるかどうかというご質問と理解しました。
これについては以下のように考えます。

(1)議事録の効力について、会社法の通説と同じ考えで、「法律関係の明確化のために作成されるものに過ぎず、したがって記載漏れ
または事実と異なる記載があった場合、それにより決議の効力等に影響があるわけではない。しかし決議に参加した理事が議事録に
異議をとどめなかった場合、決議に賛成したと指定され、不利益を受ける場合がある」(江頭憲治郎著『株式会社法 第6版』有斐閣
2015年4月刊 422頁)と思います。

(2)ただこの規定は理事会決議に賛成したことを推定するにすぎませんので、その決議を基礎に行為した理事が任務懈怠責任を負う場合
であっても、賛成取締役の任務懈怠が推定されるわけではありません。(落合誠一編『会社法コンメンタール8』商事法務2009年2月刊 
308頁)したがって、議事録に議論の経過が記載され、議長が反対であることが明らかである場合や特に発言を求めて反対の意思を表明
したりしていれば、その推定を覆すことができると思います。

(3)以上から岩内さんが②でお書きになったような表現をしなくてもよいのではないかと思われます。一般的にいって議事録には
決議の結果が記載記録されますが、誰が決議に賛成し反対したかについては明示されることがありません(※)ので、むしろ議論の
経過の方が証拠能力としては意味があるように思います。

(※)前掲『会社法コンメンタール8』308頁参照。なお私が評議員を勤めている財団では、評議員会の例ですが、賛否を挙手で行い、
その数を確認していますので、賛成者と反対者は明確となっています。(もっともほとんどの場合全員賛成であり、挙手の意味は実際は
少ないようです。)


2.9月17日付のご質問について
ご質問の順番に私の考えを簡略に申し上げます。
(1)仮議長は、定款に規定する議長ではなく、正式に議長を決定する迄の司会者みたいなものであり、理事でなくても事務局が行っても
よいとされていますし、それは実務上も定着していると思います。従って定款の規定に拘らず出席した理事全員が本来持っている議決権を
行使できると考えます。

(2)公益法人協会の理事会では、上記1の(3)の(※)に書いたような挙手による賛否の確認は行っておらず、特に異議の申出がなく、
出席者の「賛成」或いは「異議なし」という声により、原案に賛成の場合は可決としていますので、特定個人の賛否は明確ではありません。
しかし代表理事の選出について、その候補者が利害関係者として議決権を留保する或いは棄権する必要は判例・学説ともないとされて
いますし、また当日出席した私はそのような事実はなかったと記憶していますので、本人が明示したか黙示であったかは別として賛成で
あったと思います。

(3)代表理事(ならびに執行理事)については、一般法§90③(ならびに同法§91①2)によりおっしゃる通り「選定」と規定されています
ので、条文の印用の際は選出ではなく「選定」とすべきかと思います。ただ、ここからは全くもっての個人見解或いは個人的好みと
なりますが、私自身は「選定」とすべき時であっても、条文の印用の場合でない限りは、「選出」と書くことに何の拘りも持っていません。
その理由は、国語的には「選出」も「選定」も全く同じであり、一般法が分けて規定する根拠ならびにその効果の差異等が私個人としては
納得できないからです。このことについては、記述すると長くなりますので、末尾に(※)記載しましたので、もしよろしければご参照
ください。

(4)事務局長の選任のところの文章の書き方については、私は事務局ではありませんので承知しておりません。

(5)登記は終了していると事務局より聞いております。

(※)「選定」と「選出」について
 この問題については、「解職」と「解任」の言葉遣いを巡って、岩内さんより去る6月18日付でご意見を頂戴しています。今回は
「選定」と「選任」の問題ですが、「選定・解職」「選出・解任」とセットで考えられますので、「選定」と「選出」の問題として
議論したいと思います。
 なお本件について回答が遅くなりましたが、それは色々の識者に聞いても私自身が納得できないこともあり、さらにこのような使い分け
をする根源的な根拠を探していたためです。ただ、いくら探してもその根拠となるものが見つかりませんので、本件については
多分私の能力を超えますのでこの回答で議論を打ち切りとさせて頂きます。

(1)一般法§90③については、会社法§362③と同一の規定振りですので、そこからみてまいりたいと思います。
会社法の立法担当者であった葉玉弁護士(現学習院大学教授)によれば、「選任」は、何の役職にもついていない人を選ぶとき
(例 取締役の選任)に用い、「選定」は、ある種類の役職についている人の中から選ぶとき(例 代表取締役の選定)に用いる
という使い分けをしたとのことです。http://blog.livedoor.jp/masami_hadama/archives/50066143.htmlちなみに、「選定」は
会社法では、代表取締役のほか、設立時代表取締役(47条)、設立時委員(48条)、設立時代表執行役(48条)、業務執行取締役(363条)、
監査法人等における会計参与の職務を行うべき者や会計監査人の職務を行うべき者(333条、337条)、会計監査人解任の報告をする
監査役(340条)、特別取締役(373条)、常勤監査役(390条)、委員会設置会社における委員会の委員(400条)、代表執行役(420条)、
代表精算人(489条)等で多数用いられております。解職も同じです。
これに対して、法人法では、代表理事のほか、設立時理事(21条、162条)、業務執行理事(91条、197条)、代表清算人(220条)程度
しかありません。

(2)それでは、国語としてはどうか、或いは他の法律ではどうかをみてまいります。
私自身は、国語として二つの言葉に大きな差異がないと思います(※1)。また新会社法以外ではこのような使い分けをしていないと
思います(※2)。
(※1)広辞苑や新明解国語辞典程度の中小辞典でもいろいろ書いていますが、大日本国語辞典では、選任を「選んでその任務に就かせる
こと」と、選定を「えらび定めること。多くのなかから目的にあったものをえらびとること」となっており、どちらの言葉であっても、
理事の「選任」と代表理事の「選定」の「」の言葉を同一にしても、或いはそれぞれを入れ替えても通用すると思われます。
(※2)有斐閣の「法律用語辞典第3版」によれば、次のようになっています。
「選定」→「一定の目的に合った人又は事物を選びさだめること。」となっており、憲法第15条第1項の国民の公務員選定の権利の例が
載っていますが、これは葉玉氏のいう「ある種類の役職についている人の中から選ぶとき」にあたるでしょうか。
「選任」→「一般にある人を選んで、ある地位又は任務に就かせること。選挙による場合を含んだ広い意味で用いられる。」となっており、
国会法第31条2項の議員の役員選任の例が載っていますが、これは葉玉氏のいう「何の役職にもついていない人を選ぶとき」にあたる
のでしょうか。


(3)このように会社法とそれを受けた一般法以外(勿論全法律を調べたわけではありませんが、)区別はしていないと思います。
それにも拘らずあえてそれを行うということは、何らかの実益を伴うなら格別ですが、単純な一法律の認識のために、このようなことを
するというのは、いたずらに一般の国民を惑わせるし、さらに言えば法律は難しい、その結果法律嫌いにさせる原因にもなるかと思います。
そこで以上の理由以外に何かもっと本質的な理由があるのではないかと識者にいているところでした。

(4)そのうちの一つとして一法律(会社法)だけであっても、階層のある概念(ここでは「選ぶこと」)はできる限り細かくし、
同種のものが多数あるときは、同種のものは同一の言葉を使うことが思考の整理(記憶の節約)になるとある弁護士さんから教え
られました。そして会社法もそのような考えから言葉を整理したように聞いているとおっしゃっています。(前掲(1)のように
会社法では多数の「選定」がありますが、一般法では4件のみです。)

(5)しかしそのような整理は、私のように素人で論理的・抽象的な思考の苦手なものにとっては、記憶の節約になるどころか、
思考・記憶の負担になるように思います。もしこういうことをやるならば、法律の最初にその言葉の定義を行って使い分けをすべき
であって、立法担当者がある意味では勝手に「選任」と「選定」の使い分けを行ったことに非常な違和感をもっています。
従って私自身は、法人法第91条や197条を引用するとき等は「選定」を使いますが、一般的な記述説明をするときは、上記(2)の
法律学辞典でより広い意味とされる「選任」を使ってきたし、これからもその方針でいきたいと思っています。(もっともそれが
正しい態度かどうかはよく分かりませんが。)

以上

By 鈴木 勝治
鈴木 勝治
 

Re: (続々々)理事の議決権

投稿記事by 岩内 省 » 2015年10月03日(土) 10:22

鈴木様、

愚問にお時間を割いてご検討・ご回答いただき恐縮に存じます。
私が公法協の二段階採決方式で明らかに不自然だと思う“賛成6、反対4の理事会で賛成の議長を除外採決すると5対4で否決”というバカな事態が起こる問題への直接回答がいただけないのは残念ですが、これはいったん措き、二点のみ再問いたします。

まず、議事録の方はやはり納得できません。もし、ていねいに「定款第49条により採決したところ、『出席理事全員一致で可決した』」とでも記したら、同条2項違反は明々白で登記審査で引っ掛るのではありませんか。

もう一つ、「選任」「選定」の区別について、ご回答中の見出しに「(*)『選定』と『選出』について」と記されていますが、『 』中の「選出」は明らかに「選任」の誤り、以下本文同様です。
で、「選定」と「選任」について、諸説・諸文献博捜されたようですが、それはほとんど無意味です。折りに触れて申し上げているように、何某はこう言う、会社法はこうだ、ではなく法人法にはどう書かれていて、どう使われているかを認識・理解すべきなのです。
あえて定義でなく実用例を挙げると、広く枠を設けず外から理事を選ぶのが「選任」、理事という枠内で(=理事を前提資格として)内輪で代表理事を選ぶのが「選定」です。資格を問わず評議員を選ぶのは「選任」で評議員を基礎資格として定款により評議員会長を決めるなら「選定」です。鈴木さんの「立法担当者がある意味では勝手に『選任』と『選定』の使い分けを行ったことに非常な違和感をもっています」というお気持ちは充分理解しますが、実定法の用語法を理解が優越します。「代表理事」と「理事長」の違いをを『広辞苑』で引いても詮無いのと同様、「選任vs選定」の解決を辞書や会社法に求めてはいけないのです。


そこで件の79条を引きましょう。

「第79条 代表理事が欠けた場合又は定款で定めた代表理事の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した代表理事は、新たに『選定』された代表理事(次項の一時代表理事の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお代表理事としての権利義務を有する。
2  前項に規定する場合において、裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより、一時代表理事の職務を行うべき者を『選任』することができる」

1条文中で「選定」・「選任」を使い分けているのですから、間違いなく意識的です。第2項によって「一時代表理事の職務を行うべき者」つまり実質的な臨時「代表理事」は、「選任」されるのですから理事である必要はありません。ここに、“理事でない代表理事”の職務担当者が登場するのです。彼は、理事会議長はできますが、1票を投じることはできません。同様に、同条1項によって登場する「なお代表理事としての権利義務を有する」者も理事に再選されるか否か云々を顧慮する必要などまったく無く、理事総改選のときなどは、オートマチックに前代表理事が引き続き代表理事の職務を担い、定款に定めがあれば新理事会招集、議長、議事録署名等が合法正当にできるのです。ただし、議決権は有しません。よって、現代表理事が生きている限り、代表理事機能が途切れるなんて恐ろしいことは起き得ないのです。ヒトは、心臓が寸時と雖も停止したら死にますが、心臓の機能さえ果たせば肉体の基礎資格を欠くプラでもアルミでもいいのです。代表理事も、理事であろうがなかろうが、とにかくその機能は止めるわけにはいかないのです。
単純素朴な「選任・選定」を正しく理解すれば、79条の誤解は解けるはずです。

〈補記〉法人法の記述はきわめて正確なのですが、内閣府の役人たちは鈴木さん以上に無頓着で、平成20年10月14日付け「内閣府大臣官房新公益法人行政準備室」発の公文書「特例財団法人における最初の評議員の選任について」で、選任方法の例として「評議員『選定』委員会」方式を例示してしまいました。「選定」委員会で「選任」せよです。これが諸パンフやFAQにもコピペされ、それを移行時にうっかりコピペして今なお「選定」委員会が生きている財団が多数あるようです。罪作りな事でした。文書末には「担当」として「上村」「小池」両名が記載されており、この二人は末代に恥をさらすことになりましたが、その後、どうされたことでしょう。なお、公法協は確か「評議員『選考』委員会」というような名称でクリアーしていたように記憶します。さすが鈴木さんの起案(?)です。

この際、公法協の定款、諸内規も訂正してくださることを切に願います。
岩内 省
 


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